手を
「覚悟を決めたのか?」
アンリの言葉にシャロンは静かに頷いた。
「そうか」
頷きながらシャロンの横顔を盗み見すると、ティアたちを見つめる眼差しが彼女の本気を伺わせた。
一人になった間、シャロンが何を考えてたかわからないが相当な葛藤があったのは容易に想像ができる。
「…?」
そんな事を考えていると、突然シャロンが手が己の手に触れ、ギュッと握り締められた。
その手は緊張のせいなのか冷え切っている。
「シャロン…?」
「お願い、アンリ。今だけでいいの。このまま手を握ってて」
不思議そうに名前を呼ぶアンリにシャロンは頼むと引きつった笑みを浮かべて彼の方を振り返る。
「覚悟は決めたけど、怖いんだ…。お願い」
最初はキョトンとしていたアンリだったが、すぐにシャロンが安心するように優しく微笑むと自分からもシャロンの手を握った。
「大丈夫だ」
冷え切った手にアンリの熱がじんわり広がっていくのを感じながらシャロンは頷く。
「うん、ありがとう」
シャロンは目を閉じて深呼吸をする。
こんな所で怖気付くわけにはいかない。
「どれだけ僕が君を探してたかわかる?もう、会えないかと思ってた」
ラインは震える声でそう言ってティアの濡れた頰を両手で包み込む。
「ずっとお礼が言いたかったのに、責任を感じて僕の前から姿を消すなんて…」
「私はお礼を言われるような事何一つしてないじゃないですか。あなたの目を治す事が出来なかった…ラインに合わせる顔なんて無かった」
その時の事を思い出し、ティアは胸が締め付けれた。
「歌さえ歌えればラインは目が見えるようになるのにってずっと自分を呪ってきました」
「目なんか見えなくても全然構わない。命を救ってくれたのにティアが負い目を感じる事なんてない」
ラインはそっとティアを抱きしめた。
「ありがとう、ティア。こうして生きていられるのもティアと再会できたのも全部ティアのおかげだ」
「ライン…」
ティアは涙で濡れた顔をラインの肩に埋めた。
わかってた。
ラインが自分が歌を歌えなくて目を癒せなくても許してくれるって。
責めずに受け入れてくれるってわかってた。
でも、その優しさが辛い。
「それでも大好きな絵を描かけなくなってしまったじゃないですか…」
文句の一つくらい言ってくれればいいのに。
そう思って言った言葉はラインにあっさり否定されてしまった。
「目が見えなくても絵が描けるってティアに証明したくて、絵の練習してるんだ。だから本当に気にしないでまた前みたいに一緒にいて欲しい」
どこまで優しいんだろう、この人は…。
このままラインの優しさに甘えてしまいたくなる。
ラインの背中に伸ばしかけた両手の動きを止めて代わりに肩を掴み、彼を引き離した。
「ティア?」
不安そうなラインから数歩後ろに足首まで海に浸かる所まで下がる。
「…私も練習したんですよ」
ティアの言う“練習”の意味にすぐに気づいたラインがギョッとする。
「それってまさか…」
「はい、もちろん歌です。下手くそだったから上手くなるまで時間がかかりました」
努めて明るい調子でティアは言った。
「だから聞いてもらえませんか?」