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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第七章
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波音

 二人で魔法陣の中心に立つと、アンリが「準備はいいか?」と訪ねた。

 少し緊張したような顔でラインが頷くと、アンリは深呼吸をしてからルーク語で呪文を唱え始めた。


 聴き慣れない呪文を聴きいていると、不意に素足に触れていた絨毯の感触が消えた。


「!?」


 突然の浮遊感とアンリの呪文以外何も聞こえなくなり急に不安に襲われる。

 音だけが世界を認識する唯一の方法なのにそれさえも失われ恐怖に耐えきれずに自分の手を握るアンリの手を強く握りしめた。


 “大丈夫”


 まるでそう言うかのように、アンリは優しくラインの手を握り返した。

 それに安堵をした刹那、足が湿った柔らかい何かに触れた。

 それと同時に水が押し寄せ、乾いた砂に吸い込まれていく音が耳の鼓膜を打った。


 ーー波音だ。


「海…」


 ラインは少し驚くと握っていたアンリの手を放してよろよろと数歩前に出た。

 真夜中の静けさの中に響く波音は、ティアを思い出せた。

 前はよく屋敷を抜け出して夜中にこうして静かな海を二人で眺めていた時の事を懐かしく思う。


「アンリ、悪いんだけど波打ち際まで行きたいんだ。連れて言ってくれないかな?」


 そう言ってラインはアンリの方に手を差し伸べた。

 すぐに手を取ってもらえたが、その手の持ち主にラインは首をかしげた。


 その手はアンリにしては柔らかく、そして指先が細い。

 まるで女性の様な手だ。


「アンリ…じゃない?」

「アンリじゃありませんよ、ライン」


 優しい女性の声。

 

 懐かしい、一番聞きたかった声。


「ティア…?ティアだよね?」

「はい、ライン。ずっと会いたかった…」


 ティアはそう言って、ラインの手を涙で湿った頰に擦り寄せた。


「僕だってずっとティアに会いたかったんだ。ずっと」


 

 再開を喜ぶ二人を少し離れたところでアンリは見守っていた。

 自分に出来るのはもうここまでだ。

 後はなる様にしかならない。


 その時、不意に気配を感じて気配の方を見るとシャロンが静かにこちらに来ているところだった。


 シャロンはアンリの隣に来ると再会する二人を見つめた。






 

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