誘い
自室で眠りについていたラインは、窓が開く“キィッ”という微かな音で目を覚ました。
ジッと耳をすませてみたが、廊下からは物音は一切聞こえない。
朝の早い使用人達がまだ寝ているってことは、今は夜中だ。
目が見えないせいで部屋の状況が把握できないが、この部屋に自分以外の人間がいる気配だけは感じ取れる。
こんな時間に窓から入ってくる奴なんて賊しかいない。
恐怖で心臓が痛いくらい脈打つ。
「だ、誰だ?」
出来る限り力強い声を出したつもりなのに、実際に出た声はか細く頼りない。
「あ、ごめん。俺なんだけど…わかるかな?」
聞き覚えのある声にラインは驚いて声を上げる。
「あ、アンリ!?なんで…んぐっ」
大声を上げるラインの口をアンリが慌てて塞ぐ。
「しーっ!何のためにこの時間に来たと思ってんだよ!」
出来る限りの小さな声で怒鳴るとアンリはラインの口から手を離した。
「し、死ぬかと思った…。え?アンリって賊なの?」
「違うって。ちょっと一緒に来て欲しい場所があるんだ」
「一緒に来て欲しい場所?」
首を傾げるラインにアンリは頷いた。
「あぁ、出来ればライン一人で来て欲しいんだ」
「で、この時間か…」
考え込むラインにアンリは心配そうな顔をした。
「今日あった奴が夜中に忍び込んで来て、怪しいって思うのはわかるんだけど、俺を信じてくれないか?」
「いいよ。何でかわからないけど、アンリなら信じてもいいって思えるんだ」
ラインはそう言って微笑む。
その笑みにアンリはちょっと嬉しくなって頰を掻く。
「よかった。じゃあ、早速…」
アンリは辺りを見回して、花瓶見つけるとそれを手に取る。
「絨毯濡れちゃってもいいか?」
「まぁ、乾けば問題ないと思うよ。…出来れば使用人が見つける前に乾いてて欲しいな」
「その時は俺が乾かすよ」
苦笑すると、アンリは花瓶に入っていた花をテーブルに置いてから中の水を少しづつ絨毯の上に流し魔法陣を描いていく。
「よし、出来た。…ライン」
アンリはラインの手を取ると魔法陣の中心へと誘った。