優しさ
深夜、全ての生き物が寝静まったのかと錯覚するくらいの静けさの中、アンリはティアと二人で浜辺で焚き火をしていた。
「シャロン、来なかったですね…」
ティアが落ち込みながらそう言って手に持っていた枝を焚き火の中に投げ入れた。
海から夕方に帰ってきた時にはもう既にシャロンはいなく、打ち合わせの時になってもシャロンが現れることは無く、結局作戦実行の時になってしまった。
「シャロンもいろいろ考えてるんだろ」
「…やっぱり、こんな私に愛想が尽きてしまったんでしょうか?騙してしまったから…」
「そんな事は無いと思うけど。心の整理とかつかないんだろ。愛想が尽きたとかそうじゃないから」
「…アンリは優しいですね」
焚き火をじっと見つめていたアンリは顔を上げると、向こう側にいるティアを見て首を横に振る。
「俺は優しくなんか無いよ」
「そうでしょうか?貴方はこんな私を慰めてくれますし、力を貸してくれるじゃないですか」
その言葉にアンリは苦笑した。
「お前を結局死なせてしまう作戦しか立てられなかった俺が優しいわけないだろ?」
「でも、私の事を分かってくれて協力してくれてるじゃないですか」
「…シャロンにも言ったけど、俺は愛とかそういうのよくわからない」
ティアはちょっと意外そうな顔をした。
「愛を知らない…?」
「まあ、いろいろあってさ。故郷の人たちからは疎まれてて一人で生きてきたんだ。シャロンと旅に出るまでは」
「…そうなんですか。ごめんなさい、嫌なことを言わせてしまいました」
申し訳なさそうな顔をするティアにアンリは明るく笑った。
「いや、気にしなくていいよ。だから命をかけて他人を助けようとするティアが理解出来ないんだ。…俺はシャロンを何があっても守らなきゃいけない。それは自分の使命だし償いだと思ってる。でも、お前は違うだろ?」
ティアは無言で頷いた。
「愛とか知らない俺がティアの事を理解してないんだ。わからないのに協力してる。ごめん」
「んー…私にはよくわかりませんが、きっとアンリは自分が思ってるほど愛を知らないわけないと思いますよ?」
「え?」
今度はアンリがキョトンとする番だった。
「気づいてないだけでアンリを愛してる人ってたくさんいると思いますよ?私もその中の一人ですから。もちろん、友達としてですけどね!」
ちょっと恥ずかしそうに笑っていうティアにアンリは頰をポリポリと掻いてちょっと考える。
「…わからないな」
「すぐにわからなくても、きっといつか気づくときか来ますよ」
「かな?…さてと、そろそろ時間だな」
アンリは立ち上がってそう言うとティアの方を見た。
「準備はいいか?」
「…はい」
ティアは立ち上がると頭を下げた。
「よろしくお願いします」
アンリは頷くと、砂浜に魔法陣を描いてからその場を後にした。