泡になっても
「幼馴染が…ラインが王都へ画材を買いに行くのは知っていました。だから、魔導船が沈没した時私はすぐに助けに向かいました。…海の中に沈んでいくラインを見つけた時は本当にゾッとしました」
ティアはその時のことを思い出したのか、震える両手をギュッと握りしめた。
「助け出すことは出来ましたが、視力を失ってしまった…。絵描きになるのが夢だったのに、それも叶わなくなってしまいました。私が歌を…癒しの歌さえ歌えれば彼の夢を叶えてあげることが出来ると思いました」
「歌えば死ぬのに?」
シャロンの問いにティアは微笑んで答えた。
「それでも、助けたいんです」
「やっぱり好きなんだ?ラインって幼馴染の子」
「はい、彼は私の全てですから。彼が幸せになれるなら泡になって消えてしまっても構わないのです」
それを聞いてシャロンはティアから視線を逸らして足元を見つめる。
そんな事言わないで欲しいって思う。
生きていて欲しい、死んで欲しくなんかない。
黙り込むシャロンの頭をティアは優しく撫でた。
「そんな悲しい顔しないでください。私のことを哀れだって思いますか?」
「そうじゃないけど…でも…辛いよ」
「ねぇ、シャロン。命を懸けてもいいって思えるくらい好きな人に出逢えるって奇跡だと思えません?」
そう言うティアの幸せそうな顔を見てシャロンは言葉を詰まらせた。
「それに人魚は元々、泡に魔力が宿って生まれた種族だと言われているんですよ。だから、魔力を失っても死ぬのではなくただ、泡に戻るだけです。私はまた海の一部に戻るだけ。悲しい事なんて何一つない」
「…ティア…」
二人の会話を聞いていたアンリが突然、口を開いた。
「ティアの覚悟はわかった。…ティアの魔力を考えると今晩がチャンスだと思う」
「今晩!?ちょっとアンリ待って!」
ティアと別れる覚悟とかそんなの全然出来てないのに今晩だなんて!
シャロンの抗議にアンリは顔色一つ変えない。