知らないから
「教えてたら、ティアに歌を教えなかったのか?」
「それは…」
少し考えてから、シャロンはわからないと首を横に振った。
「ティアに死んで欲しくない…けど、教えてたのかな…?」
詳しくは聞いてないけど、歌を聴かせたい人がティアにとって大切な人だって知ってる。
その気持ちを無視することが出来るのか、わからない。
「教えてただろうな」
アンリは少し呆れるように笑って同意した。
「きっとシャロンは俺が教えてやっても悩んで傷付きながらティアに協力してただろう。そんなシャロン見たくなくて黙ってた。…ごめん」
「アンリ…」
「それにもう一つ理由があるんだ」
「え?」
驚くシャロンにアンリは苦笑した。
「俺、命を懸けて愛する人を救いたいなんていうティアの気持ちがよくわからないんだ。誰かを愛した事も愛された事も無いからそんな気持ちがわからない。…でも、シャロンは違うだろ?愛を知ってるからティアに共感して助けたいと思ったんだろ?それなのに愛を知らない俺が止める資格なんか無い。邪魔しちゃダメだって…」
「じゃ、じゃあ、なんで…」
シャロンはそこまで言って言葉を詰まらせた。
じゃあ、どうしてアンリはいつも私を命懸けで私を助けようとしてくれるの?
そこまで考えてシャロンはギュッと首に下がるアンリから貰ったお守りの入った瓶を握りしめた。
自分は一体何を考えているんだろう。
これじゃ、ただの自惚れだ。
前にアンリが言っていた事を思い出した。
ヒューディーク村の人を絶対に殺さないと。
アンリがシャロンを守るのは、好きとか嫌いとかではなく使命だ。
「シャロン、どうした?」
「ううん、なんでも無い」
何故か胸が痛い。
それに気づかれないようにシャロンは笑ってみせた。
今はティアが優先だ。
「なぁ、一度ティアのところに戻って話を聞こう?ティアと話したらきっとシャロンがやってきた事は裏目じゃないってわかると思うんだ」
アンリはそう言って立ち上がるとシャロンに手を差し伸べた。
その手をちょっと見てからシャロンは握り返して立ち上がる。
「そうね…ここでいじけて泣いててもしょうがないし」
それにティアを助けるアイディアだって思い浮かぶかもしれない。
「…ねぇ、アンリ」
「ん?」
「なんか、いろいろありがとう」
アンリは笑って頷いた。