気持ち
シャロンは後退りながら呟く。
「シャロン、聞いて…「違う!私は…私はそんなつもりじゃなかった!!!」
自分に手を伸ばしてきたティアの手を払い除けて叫ぶと、シャロンは二人に背を向けて走り出した。
「シャロン!」
ティアの悲痛な叫びも無視して、その場から逃げ出す。
「うわっ、と…。シャロン?」
「っ…」
途中、戻ってきたアンリにぶつかったがシャロンは彼を押し退けてそのまま走り去る。
何があったのか状況がついて行けないままシャロンの背中を見送っているとティアが息を切らしながら声をかけてきた。
「あ、アンリ…シャロンが…」
泣きながら自分にしがみつくティアとその後ろに険しい顔をした女の人魚を見てある程度、状況を飲み込めたアンリはため息をついて彼女の頭に手を置いた。
「気づいたんだな、シャロンは」
「…はい、最悪な形で。どうしよう…私、彼女を傷つけてしまいました…謝らないと…」
震えるティアにアンリは買ってきた物を渡すと微笑んだ。
「とりあえず、ティアはここで待っててくれないか?俺が追いかけるから」
そう言ってアンリはティアの返事も聞かずにシャロンが走って行った方へと、駆け出した。
アンリとシャロンがいなくなると、ティアはヘナヘナとその場に座り込んで涙を拭う。
そんなティアの肩にルチルが優しく手を置いた。
「ティア、帰るわよ。私たちはもう人間に関わるべきじゃない」
「姉様は黙ってください。父様に勘当されたっていい。もう、私の事はほっといてください…お願いだから…」
自分の方を見ずに俯き泣きじゃくる妹の肩から手を離すと、首を横に振った。
「たった一人しか居ない妹に生きて欲しいと願うのはいけない事なの?」
責め立てるような声色では無く、ただ悲しげなその声にティアはハッとして後ろを振り返るとそこには姉の姿は無かった。
「…ごめんなさい…」
姉の気持ちなど考えた事も無かった。
どうして、こんなに自分勝手なのだろう。
でも、もう決めた事だから。
ティアは涙を拭うと、立ちあがりアンリに言われた通りに待つことにした。
シャロンが戻ってくることを信じて。
砂浜に残された足跡を辿っていると、流木に座り膝を抱えてうずくまっているシャロンを見つけてアンリは小さく安堵した。
「シャロン」
近づいて声をかけるとシャロンの肩が震えて、ゆっくりと顔をこちらに向けた。
その顔は涙でグチャグチャでお世辞にも綺麗とは言い難い。
アンリは苦笑するとハンカチをシャロンに渡した。
「ほら、酷い顔してるぞ」
「…うるさい」
小さく文句をぼやきながら、それを受け取ると目をゴシゴシと拭く。
「大丈夫か?」
「大丈夫に見える?」
「全然」
アンリは即答すると、シャロンの隣に座る。
二人が少し黙って海を見つていると、シャロンがようやく口を開いた。
「…偽善者だって」
「ん?」
「ティアのお姉さんに“偽善者”だって言われた」
その言葉でティアの後ろにいた人魚の女がティアの姉なのだと理解すると「そうか」と短くアンリは頷いた。
「そう。…あはは、これで偽善者だって言われたのは二回目だよ。一回目はコロナで。流石に二回言われるとキツいね」
そう言っている間にもシャロンの目から大粒の涙がぼろぼろと零れていく。
「なんで私がやる事って全部裏目に出ちゃうのかなぁ…?そんなつもりなんて無いのに…」
「裏目なんかじゃない」
「裏目だよ。だってティアこのまま歌を歌い続けてたら死んじゃうんでしょ?」
海をじっと見つめるアンリの方を向くと、シャロンは眉間にシワを寄せた。
「…何で、アンリは知ってたのに言ってくれなかったの?」
「人魚の事か?」
「うん…」