真実
「顔真っ青だよ!?それに咳き込んでる時だって泡出してたし!」
「シャロンも今、顔が真っ青ですよ?」
「心配して言ってるのに…!」
茶化してくるティアにシャロンはムッとして頰を膨らませる。
「すみませんって!大丈夫ですよ、ただ噎せただけですから!ね?」
「…まったく、もう」
シャロンはため息をつくと、苦笑した。
「ティアがそう言うなら信じるけど」
「さ、気を取り直してもう一回歌います!「ダメよっ!」
ティアの言葉を遮って誰かが叫んだ。
突然のことにシャロンが驚いてキョロキョロと辺りを見回していると、海の中から一人の女性が出て来るところが目に入った。
青い瞳のその女性は一目で人魚だとわかった。
そしてその風貌はティアによく似ている。
「ルチル姉様…!」
驚くティアを無視してルチルと呼ばれた女性はシャロンの前に立つと、怒りに満ちた青い瞳で睨みつけた。
「貴女、どういうつもりなの?」
「あ、あの、ど、どういうつもりって…?」
いきなりのティアの姉であるルチルの登場に頭がついていかないシャロンは思わず一歩後ろに下がる。
「ティアに歌なんか教えてどういうつもりなのか聞いてるのよ!」
「へ?」
「姉様!シャロンは悪くないんです!」
ティアがルチルとシャロンの間に入って叫ぶ。
「あんたに歌を教えて悪くないって言うの!?」
「私が自分で望んだ事なんです!誰も教えてくれないから!」
「それは貴女のためでしょう!」
「私のため?私は人魚として生まれたんです!なら、私は人魚として生きたいんです!!」
睨み合う人魚の姉妹をしばらく呆然と見ていたシャロンはハッとして二人の喧嘩を止めようと、ティアの肩に手を置く。
「あの、ティア…ちょっと」
今度は喧嘩に割って入ろうとするシャロンにルチルの矛先が向けられ、肩を掴む手を振り払われた。
「妹に馴れ馴れしく触らないで!」
「姉様!!」
シャロンを庇おうとするティアをルチルが押し退ける。
「黙ってなさい!…貴女、今人魚が魔力が無いの知っているの?」
ルチルの剣幕に押されるようにシャロンは怯えながら頷く。
「じゃあ、歌う事で魔力が激しく消費される事は!?」
その問いにも頷く。
「なら、魔力が無くなった人魚が辿る末路は知っているんでしょうね…?」
苛立ちを押し殺すように問いかけるルチルの言葉にシャロンは恐る恐る口を開いた。
「…魔法が使えなくなる…」
その回答にルチルはティアを睨みつけた。
「何も知らないから頼んだのね」
「…」
刺すような視線からティアは逃げるように目を逸らす。
「何も知らない…?」
「ええ、そうよ。何も知らないのも可哀想だから教えてあげるわ」
吐き捨てるように言うルチルにシャロンは息を飲む。
「魔力が無くなった人魚はね、泡になって消えるのよ」
「…え?」
泡になって、消える?
信じられないシャロンがティアの方を見ると彼女は項垂れていた。
「な、んで…嘘だよね?ねぇ?ティア!!」
摑みかかって肩を揺さぶるシャロンにティアは本当に申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんなさい。騙すつもりなんて無かったんです」
「そんな…」
だからさっき口から泡を出していたのか。
歌うだけの魔力が少なくなって来てしまったから。
「何も知らないくせに親切ぶって…!ティアを殺すことも知らずに!!!この偽善者!」
「やめてください!これ以上、シャロンにそんな事言わないでください!…シャロン、本当にごめんなさい。聞いてください!…シャロン?」
泣きそうな顔で自分に問いかけてくるティアの言葉が頭に入ってこない。
「違う…な、んで…どうして…」