上達
「じゃあ、ティア。もう一回」
「はい!」
アンリが買い出しに行っている間、シャロン達はずっと歌の練習をしていた。
そして、シャロンの指示にこの日何度目になるかわからないメロディーをティアが口ずさむ。
最初に会った時よりも遥かに上達したティアの歌にシャロンは満足そうに微笑んだ。
一通り歌い終わった後、シャロンは拍手をしてからティアの両手を握る。
「すごい!この短い時間でここまで出来るなんて!!」
「ありがとうございます。シャロンが教えてくれたからですよ」
「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいけど本当に頑張ったのはティアだけどね」
そう言ってシャロンはティアの手を放して少し考えると、手をポンっと叩く。
「よし!ここまで歌えるようになれば、メロディーだけじゃなくて歌詞も入れてみようか」
「え?」
突然の提案に目を見開くティアをよそにシャロンは何度か頷いた。
「これなら、あの“滅びの歌もどき”にはならないでしょ!よーし!じゃあ行ってみよう!」
あまりにもシャロンが楽しそうに言うので、ティアもつられて笑う。
「そうですね!じゃあちょっとだけ歌ってみます。でも、魔力が少なくなってきているので少しだけしか歌えませんけど」
「本番に取っとかないとね!じゃあ、苦手なあの部分やってみよう」
ティアは頷くと深呼吸を一つしてから歌った。
その歌は初めて会った時に聞いたものと比べ物にならないくらい美しく、聞き惚れてしまう程だった。
そのあまりの美しい旋律に鳥肌が立ちそうになるくらいで、シャロンが感嘆のため息を吐いた刹那、突然ティアが咳き込み出した。
「ゲホッ…ゲホッ!!」
「ティア!?大丈夫?…っ!」
慌てて駆け寄ったシャロンは口を押さえ込むティアを見て驚いて言葉を詰まらせた。
口元を押さえる手からシャボン玉のような泡が溢れて出ていた。
苦しそうに咳き込むティアの姿にハッとしてシャロンは背中をさすってやる。
「ゴホッ…はぁ…」
少ししてからティアはようやく落ち着いて深呼吸をした。
「大丈夫?」
「はい、すみません。ご心配おかけして…」
心配そうなシャロンに顔を真っ青にさせて、ティアは安心させるように微笑んだ。