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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第七章
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理由

「と、とりあえずこのままだと風邪引くからちょっと待って」


 ティアにそう言うとアンリはシャロンの腕を引っ張り近くに立たせる。


『全てを洗い流す水よ、我らを潔めよ』

「ぎゃー!」


 アンリの呪文で二人の足元から一気に水が吹き上がり包み込むと、海水を洗い流す。


「ゲホッ、ちょ、アンリー!水を浴びるなら前もって言ってくれないと鼻に水が…」

『暖かな風よ、我らを包み込め」


 シャロンの抗議を無視してアンリが魔法を発動させると暖かな風が二人の服を乾かした。


「あんたは本気で私の話しを聞きなさい!今度からちゃんと魔法を使うときは言ってよね!鼻に水が入って痛い!」

「悪かったって。今度からちゃんと言うって!」

「全くもう!」


 二人が言い合いをしてる中、珍しそうに見ていたティアが感嘆のため息をついた。


「人間はこんな事で魔法を使えるなんて羨ましいです」

「あれ?もしかして嫌味?」


 シャロンの言葉にティアは慌てて首を振り「違います違います!」と全力で否定した。


「今は気軽に魔法が使えないので、純粋に羨ましいって思ったんです」

「へぇ?なんで?…あ」


 そこまで聞いてシャロンは思い出す、魔力がどんどん無くなってきていることを。

 人魚も例外ではないのだ。


「ごめん、無神経だった」

「いえ!わー、なんか気を使わせてごめんなさい!」


 ペコペコ頭を下げるティアを見ながら、アンリは苦笑するとその場に座り込む。


「俺は、アンリ・ローレンス。でそっちはシャロン・アシス。なぁ、腹減ってない?ご飯食べながら話聞かせてよ」

「あ、は、はい!」

「私もお腹すいた!」

「はいはい…あ」

「どうしたの?」


 アンリの隣に座ったシャロンが複雑そうな顔をしているのに気づいて首を傾げた。


「俺たちが買ったのは魚のフライを挟んだパンだ」

「あ!」

「?」


 気まずそうな顔をしている二人をティアは不思議そうな顔をしていたが、アンリが手にしているのを見て全てが納得したように笑った。


「私たちもお魚食べますよ?」

「「え!?」」

「人間だって同じ陸に住む者を食べるじゃないですか。それと同じです」


 ニコっと笑って言うティアに「まぁ、そうだよな」と相槌を打って買ってきたフライサンドをちぎりアンリが手渡した。


「ありがとうございます。…んー!美味しいですね」

「何となく複雑ねぇ」


 シャロンはそんな事を言いながら、フライサンドにかぶりつく。


「で?あれが癒しの歌ってどいう事?」


 アンリの言葉にティアは持っていたフライサンドを落としそうになる。


「ふえっと…、まぁ、見ての通りなんです…つまり、その…」


 顔をボンッと赤くして口ごもるティアにシャロンが閃いたという顔をした。


「あ!音痴!」

「音痴!?」

「音痴なのね!」

「人魚が音痴なのかー」

「あの不協和音は音痴だったからなのね」

「音痴だから練習してたのかー」


 二人はそんな事を言いながら納得したように何度も頷きあう。


「音痴音痴って何度も言わないでくださいよぉぉ!!」


 ティアが泣きながら「もぉぉおおっ!」と怒る。


「悪ふざけ過ぎました。ごめん、ごめん」


 シャロンは持っていたハンカチでティアの涙を拭ってやる。


「でも、人魚は歌で魔法を発動させる。音痴って事は…」

「ご察しの通りです。…私は上手く魔法が使えません。全部滅びの歌のようになってしまうんです!でも、下手だから即死に至る訳じゃ無いのですけど」


 音痴じゃなくて滅びの歌を歌われてたら今頃即死にだったの!?


 つうっと背中に冷たいものがシャロンの背中に流れ落ちた。


「ふむ、音痴の理由は多分、体の中の魔力が高いからかな?」

「わかるんですか!?」

「俺、魔力に敏感な方だから」

「すごい…!その通りです!だから練習していたのです!そしたら、魔力を上手く扱えるようになって上手くなるかと思ったんですけど…」


 そう言ってティアは目を伏せた。

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