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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第七章
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滅びの歌

 岩場の影に二人は身を隠すと女性の様子を伺う。


「人魚だな…」


 薄い綺麗な青い瞳を見てアンリが囁く。


「へぇ…。綺麗な人…」


 海をしばらく見つめていた後、女性は辺りをキョロキョロと見回して周囲に人がいない事を確認すると、瞳を閉じて深呼吸をする。

 そして意を決したように目を開き、歌を歌い出した。


 その歌声は…。


「ひっ…!な、何これ!?頭が…頭が割れるっ!」


 シャロンが耳を押さえながら叫び声をあげる。

 不調和音が脳の神経を壊すかのようなそんな感覚に陥る。

 アンリも苦しそうな顔をしながら、顔を横に振りなんとか耐える。


「これは…滅びの歌だ…!」

「滅びの歌!?」

「これを聴いたものは死に至るという強力な魔法だ」

「私たち死ぬの!?」

「いや、なんとか止めてみせる!」


 そう叫びや否や、岩影から飛び出すと氷月華を構えた途端、歌が鳴り止んだ。

 女性が突然現れたアンリに驚いて歌うのをやめてこちらを凝視している。

 氷月華を構えたままアンリも女性を凝視するが、戦闘になる気配もなく何となく気まずくなってきた。


「え、えーと…」


 とりあえず声をかけてみると女性はハッとしたような顔をして一気に顔を赤らめた。


「あ、あの…!も、もしかしてなのですけど、聞いてましたか?」

「…歌ですか?」


 その一言で顔から煙が出るんじゃないかと思う勢いでさらに顔を赤くするとそのまま海に飛び込んで行ってしまった。


「えー…」

「何々?何が起こったの?」


 しばらく様子を見ていたシャロンもアンリの元に来ると一緒に海の方を眺める。

 すると、海から顔が出てきたかと思うとススっとこちらに向かって泳いできた。

 近くまで来ると女性は恥ずかしそうな顔をする。


「あの、歌を聞いていたんですよね?…どうでした?」


 女性の言葉に二人は顔を見合わせた。


「「酷かった」」

「やっぱり!」


 容赦ない二人の言葉に女性は「うわぁぁぁぁんっ」と声を上げて泣きながら海の中に消えて行ったかと思うとしばらくして再び浮上してくると、今度は陸に上がってくる。

 その際、海の中では下半身が魚の尻尾だったのに陸に上がる刹那、身体が光り輝くと下半身が人間の足になっていた。


 白いワンピースの裾を軽く持ち上げて女性は会釈する。


「初めまして、人魚のティア・ウォーリスと申します。先ほどは…ぶふっ…!ご、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません!」


 ティアと名乗る人魚はそう言って泣き崩れた。


「大丈夫!?しょ、しょうがないよ!ね、アンリ!」

「え?あぁ…!滅びの歌の練習だろ?しょうがないって!隠れてた俺たちが悪かったんだって」


 アンリの言葉にティアはさらに泣き声を荒げる。


「アンリ!」

「不可抗だって!」


 アンリは困ったように両手を上げて抗議する。


「ごっ、ごめんなさい、あの歌…癒しの歌なんですぅぅぅっ!」


 ティアのその言葉に二人は目をぎょっとさせた。


「「ええぇぇぇぇぇっ!?」」


 二人の絶叫が海に響き渡る。

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