水遊び
「うわっ、冷たっ!」
焦燥の月だというのに肌を刺すような冷たい水にアンリが驚いて思わず叫ぶと、シャロンが声をあげて笑い出す。
「油断してたでしょ?」
「教えてくれてもいいだろ!…ぶっ!塩っぱっ!」
抗議している最中、シャロンが顔面に水をかけてきたせいで口の中に盛大に海水が入り込みアンリは顔をしかめる。
そんなアンリにお腹を抱えてシャロンが笑い出す。
「ぷっ…!ひひひひひっひゃひゃひゃ!あはははっ!変な顔ー!きゃあっ!」
突然、顔に水をかけられ驚いたシャロンはそのままその場に尻餅をつく。
「冷たーい!しかも塩っぱっいー!」
「仕返しだ!ほらっ!」
さらに追い討ちをかけるアンリにシャロンも負けじとその場に座り込んだまま、水を浴びせ返す。
二人の闘争はお互いが疲れ果てるまで続いた。
「あー、もう、びしょびしょ」
シャロンは水を吸い切ったスカートの裾を軽く絞りながらぼやく。
「最初にふっかけたのはお前だろ?早く着替えないと風邪ひくな、これ」
濡れた髪をかき上げながら、アンリはため息をついて陸に上がった。
「海の水が塩っぱいっていうのは知ってたけど、こんなに塩っぱいんだな」
「私は知らなかったよ。あー…髪の毛ベタつきそう」
「一旦、森に入って川で洗うか?」
「そうしようかな…。あれ?」
シャロンの視線が自分と違う方向に向けられ、アンリもその方向を見るとここから少し離れた砂浜を隔てるように広がる岩場の方に女性が一人立っていた。
濃い青の真っ直ぐに伸びた顔を風に靡かせながら海を見つめている。
二人は顔を見合わせると、女性に気づかれないようにそっと近づいてみることにした。