市場
港町だけあって魚介類を扱う露店が多い市場の中を二人は歩きながら、お昼ご飯用の軽食と夕飯のおかずを探す。
「村じゃ見たことのない魚がたくさん並んでる…!」
「川魚しかないだろうからな。ここは海がそばだからな」
アンリは赤い魚を眺めながら「ムニエルとか作ってみようかな?」と呟いて素材を吟味する。
そんなアンリを見てシャロンは少し心を痛めた。
うん、わかってる。
多分ああいう台詞は私が言うべきなんだよね。
でも無理!料理できないもん!!
「シャロン?」
「え?あぁ…どうしたの?」
声をかけられ我に返るとシャロンは笑みを作って聞き返した。
「ムニエルとフライどっちがいいと思う?」
「あー。ムニエル?」
「やっぱりムニエルだよな。一回教わっただけだから上手くできるかわからないけど、やってみるか」
アンリよりも自分の女子力の低さに絶望しながら悟られぬよう完璧な笑みを浮かべて手を叩く。
「楽しみにしてる」
「上手くできたら教えてやるからな!」
「…うん」
わざとかチクショー。
悪態をつきそうになるのを堪えるシャロンに構わずアンリは赤い魚を二匹購入すると魔法で魚を一気に凍らせてからバッグの中へとしまった。
それから周りをキョロキョロして、不思議そうに首をかしげてから、他の店へと足を運ぶ。
「んー…」
「さっきからどうしたの?たまにキョロキョロしてるけど…」
シャロンの指摘にアンリは肩をすくめると、魚のフライを売っている店へと足を止めた。
「美味そうだな。パンに挟んであるやつもあるのか…」
「ちょっと聞いてる?私の質問に答えてよ」
「わかってるって。…お昼これでいい?安いし」
「聞いてないでしょ?…いいけど」
シャロンの了解を得て二つフライが挟まれたパンを購入する。
店員が袋に詰めている姿を見ながらアンリが口を開いた。
「いや、人魚族の姿を見ないと思ってさ」
「人魚族?人魚族って海の中にいるんでしょ?見なくて当たり前じゃない」
何を変なことを言っているのだ。と言わんばかりのシャロンの言葉にアンリは首を横に振る。
「人魚族は陸にも上がれるんだぞ?」
「そうなの!?」
「知らないのか…。リースポートの近くには人魚族が住んでるから会えると思ったんだけど全くその姿が見えない」
「目は何色なの?」
「薄い青い瞳のかな?でも一人もそんな人見てない」
「そりゃそうだ」
二人の会話を聞いていた店員がそう言ってアンリに紙袋を差し出した。
それを受け取りながら「どういうことだ?」とアンリが聞き返すと、店員は少し寂しそうな顔をした。
「半年前くらいには人魚族はリースポートによく遊びに来てたんだ。ただそのなんつーか…事故があってな。魔導船が海に墜落しちまったんだ。そんとき真っ先に助けに来てくれたのが人魚族だったんだけどよ、人魚族はただ、人間を陸に引き上げてくれるだけだったんだ」
・・・・・・
「歌わなかったんですか?」
アンリの質問に店員は重々しく頷いた。
質問の意味がさっぱりわからないシャロンはアンリと店員の顔を交互に見て首をひねる。
「ねぇ?なんで歌?」
「相方は知ってるのに姉ちゃんは知らねぇのか」
店員の言葉に抗議しようとするがすぐにやめた。
何を言っても馬鹿にされそうだし、ここは素直にアンリに助けを求めることにした。