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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第七章
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「シャロン!早く!」

「ま、待ってよ!アンリ!!」


 目を輝かせて前を疾走するアンリの背中を、シャロンは足を縺れされながら必死に追いかける。


「ほら!もう直ぐだ!」


 木の根が盛り上がり出来たコブの上を軽々と飛び乗ると、嬉しそうにそう言ってアンリは息を切らすシャロンに手を差し伸べた。


「潮の匂いがする!」

「潮の匂いなんて嗅いだことないくせに…!」


 恨めしそうにシャロンは言い返すとアンリの手を掴み、引き上げてもらう。


「無いけど、嗅いだことの無いこの匂いは間違いなく潮の匂いだろ?」


 鼻をくすぐる、その匂いに心を踊らせるアンリに怒っていたシャロンも顔をほころばせた。


「そうね。…で?後どれくらいなの?」


 レラと別れて半日、森の中を歩き通しな上に海が近くなってきた途端走られてたまったものじゃ無い。

 この拷問は後どれくらいなのか、一応心の準備はしておきたい。


「もう着くよ。ほら」


 アンリは人差し指を唇に当てて、静かにするようにと促す。

 その指示にシャロンは肩をすくめて、従うと微かにだが“ザァー”と水が流れるような音が聞こえてきた。


「波の音だよ。前に旅人から聞いたんだ。海ではこんな音が聞こえるって」


 海なんて無かった小さな村育ちのアンリにとって海は憧れの場所みたいなものなのかもしれない。

 それにシャロン自身、そんなアンリを見ていたせいかだんだん楽しみになってきた。


「後少しなら頑張る。行こう!」

「あぁ!」


 今度はシャロンのペースに合わせてアンリも歩き、ようやく念願の海まで辿り着いた。


「これが海…」

「大きいな」


 二人の前に広がるのは、青い空と空の色を反射する大きな海。

 そして一番目を引くのは、その海の中央で浮かぶ空中都市“グランファルーゼン”だ。

 まるで大地をえぐり取ったかとかのようなその都市は城壁の水路にあたる部分から滝のように水を流すが、その高さに水は海まで届かず途中で霧と化して霧散している。

 城壁で完璧に囲まれている都市だが、地上からわずかに城の屋根を見る事が出来た。

 そこには人間の王が住んでいて、多くの魔法使いに守られているという。


「やっとここまで来たんだな…」


 感慨深そうに言うアンリにシャロンは思わず苦笑した。


「でも、まだ旅のゴールじゃ無いでしょう?」

「そうだけど、俺にとってはグランファルーゼンは最終目標の為の大事な一歩だったんだよ」

「最終目標?」

「そう!…って、こんなところでそんな話してる場合じゃ無い!海も堪能したいけど、また今度だな!行くぞ、シャロン!」


 説明しようとしてたアンリは慌ててシャロンの手を引いて再び走り出す。


「ちょ、アンリ!今度は何!?」

「グランファルーゼン行くための魔導船に乗らないと!」


 そう言い放ってアンリは魔導船乗り場があるリースポートまでシャロンの手を引いて走る。

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