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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第六章
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断章

 死んだ者の心臓さえあれば、偽りの身体と命をその膨大な魔力によって与えてくれる魔王石の力で蘇ったコロナは感謝していた。


 魔王石によって蘇らされたほとんどの者には感情が欠落していた。

 喜びも、憎しみも、悲しみも、痛みも何も感じないただの人形に成り果てているのに自分には自我があり、明確な目的もある。


 自分たちの事を魔族はイミテーション(偽物)と呼ぶがそんな事どうでもよかった。

 どんな形であれ、自分が自分としてもう一度チャンスを与えられたのだから。


 だが、どんなに感謝していても目の前の光景は虫酸が走る程に嫌気がさしていた。


「何やってんの!?相手が痛がる場所にしっかり刺しなさいよ!こんな風にさ!」


 イミテーションが集められた部屋でただ一人の魔族の女は近くにいたイミテーションの肩に深くナイフを突き刺した。


「…」


 何も感じないイミテーションは、ただ虚ろな目で自分を刺した女を眺めていた。

 それをつまらなそうに鼻を鳴らして、投げ捨てるとため息を吐いた。


「つまんない。もっと痛がってくれれば教え甲斐もあるのに」


 それってあんたがただストレスを発散したいだけでしょ?


 なんて事は言わずにただその光景を見ているコロナ。


「人間を殺す訓練をイミテーションにするなんて、魔王様は何を考えるんだか…っと!」


 女はそう言って血を流すイミテーションの頭を蹴りつけた。

 心臓さえ壊さなければ何度でも蘇らせる事ができる。

 恰好のストレス発散人形というわけだ。


「…」


 コロナはずっと寄りかかっていた壁から離れてゆっくりと女の元へと向かう。

 その手には己の主魔法である土で作った短刀が握られていた。

 コロナはそれを見られないよう隠して女の前に無言で立つ。


「何?あんたも私に教えて欲し…ぐぇっ!」


 コロナは不意をついて女の首を掴むと、全体重を掛けて床に叩きつけた。


「何すんのよ!このっ…!」


 じたばた動きながら女が魔法を発動させようとした瞬間、コロナは隠し持っていた短刀で自分に掴みかかろうとする腕を切り裂いた。


「ぎゃっ!」


 短い悲鳴をあげて女は一瞬、思考を停止させた。

 その一瞬の隙を見逃さない。


 背後でブツリっと嫌な音が聞こえて来るのと同時にコロナの下で絶叫が迸る。


 振り返ると尖った土の柱が床から二本、女の左右の足の太ももに突き刺す形で這い出していた。

 女の足の肉の一部を先端に付けて流す土柱を見てコロナは笑みを浮かべた。


「魔法は何度か練習すれば前みたいに使えそうね」


 イメージ通りの結果にコロナは満足するとずっと絶叫している女の前髪を引っ掴み、自分の顔へと寄せた。


「ねぇ?うるさいんだけど、貴女講師なんでしょ?なら、一番痛いところ教えてくれない?私たちもうそんな事忘れちゃったから、貴女が身体で教えて?ね?」

「ひっ…!」


 女が痛みと恐怖に顔を引きつらせるが関係ない。


 コロナは両手で女の両手を横に広げると、腕を土で固定して動けないようにしてから、短刀で右の掌を突き刺した。


「ギャァォァァォォァォああああっ!」


 普通なら耳を塞ぎたくなるような悲鳴。

 それを特に気にする事もなく左の掌にも同じように土で短刀を作ると突き刺した。


「ーーーっ!」


 口をパクパクさせ白目を剥くと女はそのまま気絶してしまった。


「つまんない」


 コロナはポツリと呟くと立ち上がり近くにいた、守護者の証である銀の刺繍を施された女性の肩を叩く。


「貴女、生きている時は守護者だったんでしょ?なら、そこの魔族の女の怪我治しておいてくれない?傷が癒えたらまた、みんなでこの女を短刀で刺してどこが一番痛くて効率的なのか身体で教えてもらおう」


 コロナはニコリと笑ってそんな事を言うと、足に突き刺していた土柱を消した。


 この分ならも少し暇を潰せるかもしれない。


 コロナはそんな事を思いながら治療される魔族の女を眺めていた。

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