忠告
「わかった、わかった。あたしが悪かったって」
走り疲れてその場にへたり込んでギブアップを宣言するレラにシャロンはフンッと鼻を鳴らしてニヤリと笑う。
「ふふん、レラに勝った」
「勝ったって言うか、飽きたって感じ?」
「もう一勝負行っとく?」
「いや、遠慮しときます。…もう行かなきゃいけないし」
レラの言葉にアンリは立ち上がる。
「次の仕事場にいくのか?」
「そ、“淀み”は待ってくれないからね。大きな街で“淀み”が発生してしまえば多くの人々が困る。あたし達に休んでる暇なんて無いんだよ」
「ドワーフに捕まってだけどね」
シャロンが意地悪そうにニヤニヤして言うと、レラはシャロンの額を指でピンっと弾いてやった。
「そのブランク分しっかり働くの。…さて、アンリ。この後は王都へ?」
「あぁ。王都に渡ってから妖精の森へ行くつもりだ」
「なるほどね。…王都は妖精の森へ行くには近道だからね。王都には魔族を排除する物がいるんだけど、それには気をつけたほうがいい」
「魔族を排除する者?」
眉間にしわを寄せておうむ返しするアンリにレラは重々しく頷いた。
「あたしも被害を受けた一人だけど、あれはヤバい。動き早いし攻撃も強い。魔族を排除出来るのは魔族以外であれだけじゃ無いかな?」
「そんなに強いのか?」
「強い。生き物じゃないみたいだから死ぬって言う恐怖の概念が無くて余計かも」
「生き物じゃないの?」
「あたしは前に他の奴からそう聞いた。戦ってみたけど、よくわからない。外見ではわかりにくかったけど」
その話にアンリとシャロンは顔を見合わせた。
もしレラの言う事が本当なら王都は相当危険では無いのだろうか?
王都を経由しないで妖精の森へ行くこともできるが、それではあまりにも時間がかかる。
一分一秒無駄にしたくは無い、それが例え危険だとしても。
「そうか。教えてくれてありがとう。気をつけるよ」
「その返事ってことは王都に行くってことか」
「あぁ。まあ、危なくなったら逃げるさ」
「それならいいけど。命は大切にしな」
「わかってる」
アンリの返答にレラは安心したように笑う。
「ならいい。それから二人は“バン・ルルエール”って知ってる?」
初めて聞く人物の名前にアンリとシャロンは同時に首をかしげた。