光の雪
ティーもシャロンの頭から離れて母親に倣って“淀み”を食っていく。
二匹のパラディスによって広範囲にあった“淀み”は見る見るうちに消えて行き、ついには綺麗に無くなった。
「おお…あんなにあったのに全部食べた…」
「今日もいい食いっぷりだね」
「何が起こってるのか全くわからないんですけどー」
シャロンからして見れば、ただミルクとティーが地面に鼻を擦り付けてるようにしか見えない。
そんな中、食べ終えたミルクは突然空に向かって顔をあげると身体を震わせ次の瞬間、鼻から勢いよくキラキラした粉末のような物を吹き出した。
吹き出されたものは煌めきながら、森えへと降り注いで行く。
それはまるで、輝く雪のよう。
「何だあれ!?」
「何々!?何が起こってるの!?」
アンリが素っ頓狂な声をあげ、何も見えないシャロンがあたふたしながら空を見上げる。
「あー…あれは浄化した魔力を吹き出して魔力を世界に戻してるんだよ。こうして世界の魔力は巡ってる。…ずっと長い間ね」
そう言うレラの顔は少し誇らしそうだった。
「これがあたしたちの仕事。ね?凄いでしょ」
「あぁ、想像もつかなかった」
これが魔族の本来の仕事だったのなら、きっと世界から嫌われる事も無かっただろうに。
アンリは雪のように舞い降りてくる魔力の粒に手を伸ばして複雑そうな顔をした。
「今の魔族は何のために存在してるんだろうな…」
「さぁ?そんなの魔王様の考えることだね。下々が考えたってわかるわけないじゃん」
レラのもっともな言葉にアンリは苦笑した。
「そう、だな。うん、レラの言う通りだな」
「もぅ!二人だけしかわからない会話しないでよー!見えない私の身にもなって!」
涙目になって怒るシャロンにアンリはあやすように頭を撫でた。
「ごめん、ごめん。今、パラディスが腐敗してた魔力を浄化してまた世界に戻したんだよ。もうここには“淀み”はない」
「へぇ…そんな凄いことが。見たかった」
残念そうに目に映ることの無い光景を思い浮かべて、ただいつもと変わらない空を見上げた。
村にいた頃は自分には魔法の才能があるって信じて疑わなかったが一歩外に出ればその思いは簡単に覆されてしまった。
アンリとレラの前では、ただの魔法が少し使える人間でしか無い。
「シャロン?普通はこんな光景見えないんだから落ち込むこと無いからね?」
暗い気持ちに浸っていたシャロンをレラの一言が引き揚げた。
「え?」
「顔。すっごく暗くなってる。どうせ自分はただの人間だとか、そんなこと考えてたんでしょ?」
「別にそんなんじゃ…!」
レラに言い当てられてしまい咄嗟に言い返すが、その後の言葉に詰まる。
「あんたが弱いっていうよりアンリの方が変わってるんだから、そこは割り切らないと」
「わ、わかってるって。そんな事…」
「本当に?」
「本当よ!」
顔を赤くして叫ぶと、シャロンは盛大なため息をついた後肩をすくめた。
「…まあ、慰めてくれようとしてくれたのは嬉しいから。ありがとう」
「お、素直だねぇ」
「茶化すな!」
追いかけっこを始めた二人にアンリは呆れたように笑うと、地面に溶けて消えてしまった魔力を掴むように土に手を当てた。
この浄化された魔力が後、どれくらい魔族に回収されないでいられるのだろうか。
魔族の目的がわからない以上、グリノリア達を助けてやることも出来ない。
「何とかしたいんだけどな…」
アンリは誰にも聞こえない声で呟く。