神のみぞ知る
グリノリアを先頭に地上を目指して歩きながら、アンリは遠くの方で石を叩く音に耳をすませる。
「魔石はほとんど出ないのに、鉱山仕事はするんだな」
「もちろん。魔石は出なくても鉄鉱石とかは出るから。安くても鉄鉱石は売れるしね」
グリノリアは苦笑しながら言う。
「私たちは、魔法が使えないから魔法薬とかは人間から買わないと行けないから。どうしてもお金は必要なのよ」
「宝石だって買いたいもんな」
レラの冷やかしにグリノリアは真面目な顔で「もちろん」と頷いた。
「ドワーフって竜族と同じで宝石が好きなのね」
「えぇ。宝石はドワーフたちにとってファラの与えてくれた恵の中で一番尊いものとされてるの。竜族よりも宝石を愛してるわ」
どこかの本でドワーフと竜族は仲が悪いと書いてあったが、案外仲良くできるではないだろうか。
アンリがそんな事を考えていると、ふとある事を思い出した。
「そう言えば、あの魔石が突然光り出した時…」
「あ!あの大きいのが光った時のこと?あれ凄かったよね!いつもあんなに光るの?」
シャロンの言葉にグリノリアは首を横に振った。
「まさか!魔力があった時は淡く光ってたけどあんなに強く光った事なんて一度だって無いわ」
「そうだろうね。あの魔石は大きさはあるけれど元々、そこまで魔力が蓄積されてるようには感じられなかったし」
アンリと同じように魔力を敏感に感じ取れるレラが魔石を思い出しながらそう言うと、アンリの方を見る。
「で?アンリは何に気付いたって?」
「あ、ああ…。光った時、魔石の中に誰か女の人が見えた気がしたんだ。あれってもしかして…」
アンリはそう言いかけて口を閉ざした。
自分しか見えていないかもしれないし、居るかどうかわからない神の姿を見るだなんて…まさか。
アンリの気持ちを察したのか、グリノリアは楽しそうに笑いながら首を傾げた。
「それこそ。神のみぞ知る…ってやつだよ、アンリ」
グリノリアもあの時、自分と同じように魔石の向こうに女性を見たのだろうか?
聞いてみようかとも思ったが、やはりやめておこう。
「そうだな」
アンリは笑い返して頷いた。
「えー!誰の顔が映ってたの?ねぇ、アンリ!教えてよ!」
「内緒だ」
催促してくるシャロンを軽くあしらいながら、アンリは胸の中で、ファラに礼と非礼を詫びた。
居るかどうかわからないなんて、言っておきがら助けてもらったのだ。
今度からはもう少し敬意を表せねば。
「本当に世界は広いよな」
アンリは楽しげに独り言を呟いた。