形見
シャロンはグリノリアに分けてもらった食料を鞄に詰め込みながら、ベッドの上に置かれた本にふと目を止めた。
あれが本当にアンリの父親の物なら本を持つのはアンリの方がいい。
シャロンはそう思って本を手に取ると、そっとなめし皮の上質な表紙を撫でた。
親友のコロナの形見としてずっと持っていた。
持っていたら、コロナが何を考えていたのかいつかわかるような気がしたから。
「アンリ」
「ん?どうした?」
氷月華の手入れをしていたアンリは手を止めて、シャロンの方を振り向いた。
「これ…」
シャロンはそう言ってアンリに本を差し出した。
「やっぱり、アンリが持ってるべきだと思うんだ。お父さんの形見なら尚更」
アンリはそれを受け取ると、暗い表情で本のページをペラペラとめくった後、それを閉じてシャロンに渡した。
「俺は持ってられないよ」
「なんで…?」
「んー、なんでだろうな?何となくだけど、俺が持つにはまだ早いっていうか…だから、俺の決心が着くまでこれまで通り預かっててくれないか?それに形見なら氷月華もあるしな」
シャロンはため息をつくと頷いて受け取った。
「わかった。アンリが持つ気になるまで預かってるわ」
「ありがとう、それまでよろしくな」
「はいはい」
シャロンは頷くと鞄に本をしまい込み、アンリも手入れが終わったのかベッドから立ち上がった。
「さて、そろそろ出発するか」
「うん、私も準備できたしレラたちの所へ行こう」
二人が部屋から出るとちょうど、レラとグリノリアがこちらに向かってくるところだった。
「準備できた?」
「出来たよ!」
レラの言葉に笑ってシャロンが頷いた。
「じゃあ、案内するわね」
どこか吹っ切ったような顔でグリノリアが三人を扇動しだした。