本
「話って?」
アンリの言葉にレラは笑顔で頷くと空いている椅子に座る。
「シャロンの持ってる本について話したい事があるんだよねぇ」
「この本?」
「そ、前にアンリがあたし達“ノーバディ”一族の事を本で読んだって言ってたけど、それってその本?」
アンリは戸惑いながらも頷く。
「そっか。その本ちょっと見せて…あ、いいや。やめとく」
本に伸ばしかけた手を引いて首を横に振るレラにシャロンは首をかしげる。
「どうしたの?」
「その本、あたしの予想だと普通の魔族が知りえない情報が書かれてると思うんだ」
「「え?」」
予想していなかった言葉にアンリとシャロンは声を揃えて驚く。
「あたし達の事は本当に一部の者にしか知られてないはずなんだけど、それが本に書いてあった自体ありえない。それからもう一つ」
レラはシャロンを指差す。
「シャロンに掛けられた呪いは、禁呪だよ。魔族で知ってる奴なんていない。あたしもじぃさんに一度聞いたくらいだ。…その事は本に書いてある?」
「あ、あぁ…書いて、ある」
「やっぱり。その本、絶対に誰にも私ちゃダメだよ?あたし達の事はともかく禁呪だけは絶対に他の魔族に知られちゃいけない。…知られちゃえば最後、本当に世界が終わる」
レラの深刻そうな顔に二人は黙って頷いた。
「わかればいいよ。…その本ってアンリの両親の?て事は結構、魔族の中でも上の人とか?」
「いや…わからない。俺、父親と会ったことないし、母親も俺を産んだ時に死んだからな。…それは師匠が持ってたみたいけどどこから手に入れたのかは…」
「師匠って人間?」
「あぁ…」
「そっか」
レラは頷いて少し考え込む。
「きっと、人間がその本持ってる事があり得ないだろうから、あんたのお父さんだろうねぇ」
「…」
アンリはシャロンの手に握られている本を見つめる。
あれが本当に父親の物なら、形見になるものだ。
それをアンリは複雑な表情を浮かべて目を反らす。
「アンリ…」
シャロンも複雑な顔をした。
空気が少し重くなったのを察したのか、レラは手を叩いた。
「さて、あたしは“淀み”を祓いに行かないとねぇー。二人とも見に来る?」
「いいのか?」
「もちろん。むしろ、見てもらいたいかなぁ?」
ずっと黙って聞いていたグリノリアが寂しそうに笑った。
「てことはお別れ、だね」
「そうだねぇ。寂しいけど、あたしにも仕事があるからね」
「うん、わかってる。…じゃあ出口まで案内するね!三人とも用意ができたら私のところまで来てね!」
グリノリアはそう言い残して走り去って行った。
「…あれは泣いてたねぇ。さて、あたしも準備してこないとね」
「またね」と言って彼女も部屋から出て行った。