加護を
「きっとファラがお怒りになられてるいるんだ。…姫様の言う通り、ファラは生贄など望んでいなかったのだ!」
そう言った年老いたドワーフが、突然魔石に向かって跪いた。
「我らが間違っていました!ファラよ、今までの非礼をお詫び申し上げます!」
年老いたドワーフの言葉に我に返った他のドワーフ達も慌てて跪く。
ただ一人、リーダー格のドワーフを除いて。
「貴様ら!何をしている!?ファラが生贄を望まないなどあり得ない!!今まで我らは生贄を捧げる事でファラの恩恵を受けてきたんだ!」
「それが間違えなんだ!これを見てわからんのか!?」
年老いたドワーフの言葉にリーダー格のドワーフが首を横に振る。
「拒んでいるんじゃない!姫様だから、ファラはお怒りなんだ。…そこの女を生贄に捧げればファラもお怒りにはならない」
そう言って視線を向けたのは、アンリを支えるシャロン。
リーダー格のドワーフは懐から隠し持っていた短刀を取り出すと、ゆっくりシャロンの元へと歩みよる。
「な、何よ…!」
シャロンはアンリを庇うように抱きしめながら、リーダー格のドワーフを威嚇する。
「シャロン、狙いはお前だ。俺を置いて逃げろ」
「んなこと、出来るわけ無いでしょ!馬鹿!!」
シャロンはアンリを一喝すると近寄ってくるリーダー格のドワーフを睨む。
リーダー格のドワーフはシャロンの前に来ると短刀を振りかざした。
「ファラよ!我らの願いを聞き叶え「逃げなさいっ!」
言葉を遮ってグリノリアの鋭い叫びに、リーダー格のドワーフは驚き真横に飛び退くのと、同時に上から岩が落ちてきた。
「な…!?」
普段なら絶対あり得ない事にリーダー格のドワーフは顔を真っ青にして腰を抜かす。
ファラの怒りとしか思えない状況に身体を震わせると、慌てて地面に額に押し付けた。
「も、申し訳ありません!ファラよ、お許しください!」
アンリとシャロンは顔を見合わせて、魔石の方へと視線を向ける。
魔石は煌々と輝きまるで神の意志を表しているかのようだ。
状況をようやく飲み込んだグリノリアがゆっくり立ち上がり手を胸の前で組む。
「どうか、ドワーフの守護神ファラよ、今までの非礼を許し我らをお守りください。我らに貴女様の加護を」
グリノリアの祈りに呼応するかのように、魔石は一際輝きを増すとゆっくりと光が消えていく。
その際、魔石の中に女性の姿をアンリは見たような気がした。
「まさか、信じていなかった神様に助けてもらうだなんてな…」
そう言って苦笑すると、アンリは意識を手放した。
薄れゆく意識の中でシャロンの叫び声を聞きながら。