正す為に
「私たちの守護神であるファラは鉱山の安全と繁栄の神。そんなファラが私たちの命なんて望まれるわけが無い!」
「なんて事を…!貴女は我々の歴史を否定する気ですか!?」
今にも自分に掴みかからんばかりに怒鳴るドワーフにグリノリアは頷いた。
「私たちは間違ってたのよ。命を捧げて何かを願うだなんてそんなの間違ってる。…でも貴方達が受け入れられないのはわかってる」
そう言って懐からナイフを取り出すとそれを自分の首に押し当てた。
「私もファラの道に落ちた一人。だから、生贄を望むなら私が最後の一人になります。私が死んでも何も起こらなければ、それはファラが命を望んでいなかったという事。もう、無意味な殺戮をやめてください」
「グリ!何言って…!」
レラの言葉にグリノリアは振り返ると、苦笑した。
「これでいいんだよ、レラ。私たちの歴史は間違ってた。それを正すきっかけを作ってくれてありがとう」
グリノリアは前を向くと、困惑するドワーフ達に向き合う。
「…儀式の祝詞を申し上げます」
グリノリアはそう言って再びドワーフ達に背を向け、アンリ達の横を通り過ぎると巨大な魔石を奉る祭壇の前まで来ると一礼をし、再び皆の方へと振り向き両手を広げた。
「我らが偉大なる守護神、ファラよ。贄の命を持って我らの願いを聞き届けください」
高らかに言うと、ナイフを掲げた。
「ドワーフに祝福を!」
グリノリアは目を閉じ一気にナイフを振り下げる。
その光景にドワーフ達が騒めき出し、アンリが助けに行こうとするが眩暈に襲われその場に倒れ込みシャロンが慌てて助け出す間にレラが祭壇へと駈け出す。
「グリ!」
レラが手を伸ばすが間に合わない。
グリノリアの胸にナイフが突き刺さる寸前、背後の魔石が突然眩い光を放った。
全員が目を眩ませ、その場から目を伏せた刹那「きゃっ」と短い悲鳴とカランという金属音が祭壇の間に鳴り響く。
光が収まり、目を開けられる頃にはナイフが床に転がりグリノリアがナイフを持った手を摩りながらその場に座り込んでいた。
「グリ、大丈夫?」
駆け寄ってきたレラにグリノリアは、こくんと頷いた。
「え、ええ…大丈夫…。でも、今のは一体…」
魔石が光ったと思った瞬間、ナイフを握っていた手に何かが当たったのだ。
そして気付いた時には、ナイフは手から離れていた。
「これは一体…」
グリノリアにはわけがわからなかった。