開始
「えっ!?」
シャロンは驚いて目を開けた。
そして、自分が今どんな状況に置かれているのか理解できないでいた。
さっきまでいた場所には、氷の壁が出来ていてエドウィンの鎌が深々く突き刺さっていた。
そして自分は、知らない少年に抱き抱えられコロナとエドウィンからかなり離れた場所にいた。
「悪い、遅くなった」
少年の声にシャロンはハッと我に返る。
「え、えっと」
「大丈夫…じゃなさそうだな」
少年は顔をしかめてシャロンの傷に目をやる。
「だ、大丈夫だから下ろして!」
シャロンは慌てて少年から離れるが、足に力が入らずにその場に座り込む。
「な、なんで…」
「身体が震えてる、無理しちゃダメだ。…ここで大人しくしてて、動けるようになったら逃げろ」
少年はシャロンの前に立つと氷月華を構えた。
「一つ確認したいんだけど、魔族じゃない女はヒューディーク村の奴か?」
少年の言葉にシャロンは頷く。
「わ、私の…」
“親友”そう言いかけてシャロンは口を閉じた。
少年はチラッとシャロンを見たが何も言わない。
そして、少年は深呼吸すると魔族に狙いを定めた。
エドウィンは鎌を氷から引き抜くと、少年を見てニヤリと笑った。
後ろから少年とエドウィンが対峙しているのを見ていて、シャロンは少年があのアンリ・ローレンスだと気づいた。
なんで助けてくれるのかわからないが、彼は間違いなくアンリだと思った。
アンリはフッと息を短く吐くと、エドウィンに向かって駆け出す。
エドウィンもアンリに向かって駆け出した。
ぶつかり合う鎌と剣の音が森に響き渡る。
「何しにここへ来た…!?」
つばぜり合いをしながらアンリが聞く。
「何って?仕事だ」
エドウィンはそう言ってアンリの剣を弾くと、鎌を下から上に振り上げた。
アンリは氷の壁を出して、防ぐと間合いを取る。
「私と同じ主魔法だな」
エドウィンは何が面白いのか、ずっと笑っている。
「何がおかしい?」
「いや…」
エドウィンは首を横に振ると手を上に掲げた。
すると、空気中に無数の鋭く尖った氷柱が現れた。
「まだまだ、未熟だな。アンリ」
「…っ!なんで俺の名前を…!?」
アンリの問いに答える前にエドウィンは手を振り下げた。
それを合図に氷柱がアンリに向かって飛んでくる。
『炎よ!氷を溶かせ!!』
ゴオゥ…。と音を上げて地面から炎が吹き上がり壁を作る。
氷柱は炎に遮られ溶けて消えるが、全て消えず溶けなかった物はアンリに突き刺さった。
「…、ダメか」
腕や肩に突き刺さった氷柱を引き抜きながらアンリが呟く。
炎を消すと、エドウィンは余裕そうに笑みを浮かべると再び氷柱を出した。
「つまらないな。お前の実力はこの程度か?」
「まだまだ、こんなもんじゃない…!」
傷口から血を流しながらアンリはそう言って再び剣を構える。
「無駄な足掻きを…」
エドウィンが氷柱を放とうとしたその時、エドウィンの肩に雷の弓矢が突き刺さった。
アンリが驚いて振り返ると、さっき助けた少女が弓を構えていた。
「すごいな…」
アンリ感嘆の声をあげるが、直ぐに顔をひきつらせた。
「おい!後ろ!!」
アンリが叫び声をあげた。
そんなアンリにシャロンは首をかしげて後ろを振り返るとコロナが草むらから飛び出して来ていた。