邪魔をする者
「レラが淀みを祓ってくれたの」
「淀み?」
聞きなれない言葉に首を傾げるアンリにシャロンは、レラの事や淀みの事を説明した。
一通り聞き終えると、アンリはちょっと考えてから頷く。
「なるほどな、存在しない一族だから“ノーバディ”か」
「そ、魔王様からもらったあたし達の名前。まぁ、今となってはあたし達なんて、魔族は忘れてるだろうけどね」
「いや、そうでもないと思う。前にお前達の一族の事を本で読んだし」
その言葉にレラは目を丸くして「まさか…」っと呟いた。
シャロンはすぐにアンリが言っている本が自分の持っている本だと思い、レラに渡そうかとバッグに手を入れた。
だがその時、氷のドームが軋みだした。
そろそろアンリの魔法がドワーフ達に吸い取られそうなのだ。
アンリは忌々しそうな顔をすると、バッグに手を入れていたシャロンの手を取りユエルスを手渡す。
「はい、預かってたやつ。シャロンの穢れが無くなってたから返すな」
受け取るとシャロンは嬉しそうに笑って、ユエルスを早速取り付けた。
「ありがとう」
「あぁ、どういたしまして。…レラも。シャロンを助けてくれてありがとう。魔族は好きじゃないけど、あんたとなら仲良くできそうな気がする」
アンリからの言葉にレラは肩をすくめる。
「よく、言われるー。それ」
「だろうな。…シャロン、真面目に聞いて欲しいんだけど」
そう言って突然、真剣になるアンリにシャロンはドキリとしながら「何?」と蚊の鳴くような声で囁いた。
「シャロンは俺が見てないところでよく死にかけてるから、気をつけて欲しいんだ」
「へ?」
予想していなかった言葉にシャロンは声をうわずらせながら聞き返した。
なんか今、すごく失礼なこと言わなかった?
だが、アンリは真剣そのものでシャロンを見つめたままだ。
「何回死にかけてるか思い出してみろよ。もう、本当にお前の姿が見えないと心配で心配で…」
そう言うアンリの顔はまるで保護者のようで、思わずシャロンは吹き出してしまった。
「シャロン、俺本気で心配してんだけど?」
「わ、わかってるって…!」
ひとしきり笑った後、シャロンは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「だってしょうがないでしょ?本当は私の命はあの時尽きるはずだったんだもの。きっと神様が、あの時死ななかった私を殺そうと躍起になってるのよ。…だからアンリは責任持って最後まで神様の邪魔をして私を守らないと」
アンリは一瞬だけ驚いた後、苦笑して頷いた。
「全く、ならしょうがないか。なら俺は全力で神様の妨害をしてシャロンを守ることにするよ。…だからあんまり遠くに行くなよな」
「うーん、それはその時次第かな?」
そこで二人が楽しそうに微笑み合うのと同時に氷のドームは霧散して消え去った。
ついにアンリの魔法は破られた。