守るべき者
アンリはグリノリアと共にシャロンの魔力を追っていると、何やら前方の方から騒ぎ声が聞こえてきた。
「何にかあったのか?」
首を傾げた刹那、腕をグリノリアに掴まれアンリは立ち止まった。
「どうかしたか?」
「…アンリ、シャロンって子はこの先にいるの?」
グリノリアの言葉にアンリは頷くと、意識を集中させて魔力をさらに詳しく感じようとする。
「間違いない、あの先にシャロンと魔族…レラってやつの魔力を感じる。魔力が激しく動いてる感じがする…戦っているのか?」
もし、そうなら早く助けに行かなければ。
最後に見たときのシャロンはだいぶ弱っていたし、心配だ。
「行こう!」と叫んで駆け出そうとするアンリの手をグリノリアは更に強く引っ張ってその足を止めた。
「何だよ!?早く助けにいかないと!!」
「ちょっと待って!この先にあるのはファラを奉る祭壇なの!!」
「だからなんだよ?」
「いい?最初に言ったでしょ?シャロン達は生け贄として連れてこられたのよ?だから、祭壇にいるってことは儀式が始まってるのかもしれない。…私に報告があるはずなんだけどそれが無かったってことは何かあったのかもしれないわ。…ううん、今はそんなことはどうでもいい」
グリノリアは首を横に振ると、アンリを掴む手に力を込めた。
「そうなのだとしたら、このまま助けに行けば多くのドワーフと戦わなきゃ行けなくなるのよ?しかも、私たちは魔力吸収用の魔石があるからそれを使われてしまったら魔法は封じられてしまうわ。そうなったら魔法無しで戦わなきゃいけなくなるのよ?」
グリノリアの話を黙って聞いていたアンリは、腕を掴んでいる彼女の手を振り払った。
「…何が言いたいんだ?助けに行くなって言っているのか?」
グリノリアはアンリから視線を反らして頷く。
「人数が多すぎるわ。…戦っても体力が無くなって負けてしまうかもしれないわ」
「そんなことはどうだっていい!!俺はシャロンを助けに行く」
「貴方まで殺されてしまうかもしれないのよ!?」
「それが何だっていうんだ!?…あいつを守るって決めたんだ。自分が死のうが関係ない…!」
グリノリアは言葉を詰まらせアンリの顔を少し見た後、ゆっくり口を開いた。
「…シャロンって子の事、大切なのね」
その言葉にアンリは背中を向けた。
「初めて出来た仲間だからな」
それだけ言い残してアンリはグリノリアを置いて走り去って行ってしまった。
一人残されたグリノリアはただ立ち尽くしてアンリの背中を見送った。