決意
「ちょっと!笑ってる場合じゃないでしょ!ここから出なくちゃ!」
シャロンはそう言って立ち上がる。
自分と別れてしまった時、いつもならアンリは何をしてでも助けてくれようとしてくれる。
それなのに、アンリは助けに来なかった。
きっとアンリには何かあったに違いない。
シャロンは不安そうに服の上からお守りの欠片が入った小瓶を握りしめた。
「…アンリに何かあったのなら私が助けなきゃ」
シャロンはユエルスを出そうとして、アンリに預けていたことを思い出して肩を落とす。
「ねぇ?ここからは出られないよぉー」
「何でよ?」
「魔法が使えないから」
「…なんで?レラは召喚魔法使ってたじゃない」
「この中では使えるけど、檻を廃するのは無理ぃ」
シャロンは首をかしげて、檻を見つめる。
ただの細い鉄のにしか見えないが…。
試しにシャロンは己の主魔法である雷を檻に向かって放ってみた。
雷はすさまじい音を立てて檻にぶつかると、そのまま檻に吸い込まれて雷は消えてしまった。
「な、何で…」
「そういうこと。ドワーフは魔力が無くても魔石の扱いは得意だからねぇ~。魔法を吸収するよう作ったんでしょ。あたしにはそれを打ち破る事はできなかった。だから諦めた方が賢明だよ。…残念だけどねぇ」
「…」
シャロンは顎に手を当てて考える。
諦めるわけにはいかないのだ。
何とかしてここから出ないと…。
シャロンは少し考えた後、真剣な顔をしてた。
「ねぇ、レラにお願いがあるんだけど!!」
シャロンの言葉にレラはキョトンとして首をかしげた。
その頃、アンリは一通りグリノリアに話を黙って聞いた後、低い声で唸る。
「突然魔石の魔力が無くなった、か」
「…ええ。だから、ファラに生け贄を捧げようって。魔石は私達の重要な資源だから無くなったら困るから」
「魔石はドワーフにとっては価値の無い石ころなんだと思ってた。違うんだな」
「おとぎ話とはちょっと違うからね。ただ宝石が好きって訳じゃないのよ?」
グリノリアはそう言って少し悲しそうに笑う。
「一週間前、私は夜に地上に出てファラに祈りを捧げていたんだけど、その時に魔族に会って…」
「魔族に!?大丈夫だったのか」
「ま、魔族と言ってもいい人だったのよ!私にはわからなかったけど何かから助けてくれたの!」
「魔族が?」
アンリは信じられないと、驚愕に満ちた顔でグリノリアを見つめた。
「そう!…で、その時に運悪穴に落ちちゃったの。…しかも、ファラの道に二人揃ってね。あのときは本当に絶望した。私が生け贄の対称になっちゃったから。でも、レラが一人で落ちて私が最初にレラを捕まえに来たって嘘をついてくれたの。…だから、私は今はここにいる…」
グリノリアはうつ向くと目をゴシゴシと強く擦る。
「レラを助けたいけど、私には無理。生け贄になってしまったらもう助けることなんて…」
「何で?助けようとしてもないのに無理だなんて言うんだ?」
アンリはそう言うと立ち上がって訊ねた。
「だって神様が…ファラが選んだんだもの!それなのに…」
「でも、グリノリアはレラって言う魔族に助けてもらったんだろ?」
「…」
アンリの言葉にグリノリアは黙り込んでしまう。
そんな彼女にアンリはため息をつくと、背を向けて歩きだす。
「どこに行くの?」
「シャロンを助けに行く」
「…そんなことしたら…!」
「いるかいないかわからない神様に従うよりも、俺は目の前にいる大切な仲間を助けたいんだ」
それだけ言って去ろうとするアンリの背中をしばらく見つめた後、唇を噛み締めるとグリノリアは覚悟を決めたような表情をして声をかける。
「ちょっと待って!一人でドワーフの道を行けると思ってるの?案内が必要なんじゃない?」
その言葉でアンリは立ち止まり振り返った。
「案内…してあげる。だから、レラも一緒に助けてくれない?」
グリノリアの言葉にアンリは笑って頷いた。