レラ
レラはシャロンと仲の悪そうなティーを取り合えず消すと、ゴホンっと咳払いをするとちょっと偉そうに胸を張る。
「あたし達、ノーバディー一族は他の魔族とはちょっと違ってね、他のやつらより殺人衝動が弱いんだよねぇ」
「…殺人衝動が弱い?魔族なのに?」
「そ、あたち達のご先祖様が魔王の側近だったんだらしいんだけど…ってそんな話はどうでもいいか。まあ、なんか色々あってあたしたち達の一族だけは殺人衝動が弱くなるようにしてもらったんだ」
色々って…!?色々って何!?そこが一番重要なんじゃ無いの!?
シャロンの突っ込みたい気持ちを無視してレラは話をどんどん進めていく。
「何でかって言うとー…えーと…あれ?…何だっけ?」
「もしかして馬鹿?」
「あー、たまに言われる。…あ、そうそう“淀み”を浄化するため」
再びレラの口から出た“淀み”という言葉。
シャロンは怪訝そうな顔をした。
「だから“淀み”って何?」
「“淀み”は魔王石が浄化しきれなかった魔力。…世界の穢れ」
突然、真剣な表情になったレラにシャロンも思わず背筋を伸ばす。
「魔族の存在理由って何だか知ってる?」
「存在理由?」
「魔族はね、世界の魔力を浄化するために本来存在してるんだよね。…かっこいいでしょー?」
最後はおどけて言うとレラはため息をついた。
「ま、そんなことを知ってるのも、あたし達だけなんだけどね。…魔王石は世界を循環する魔力を浄化するために存在し我々魔族はその浄化しきれなかった魔力、つまり“淀み”を浄化するために存在する。初代魔王はそれを掲げてたみたいだけど、結局身内に裏切られて、破壊のために存在する種族に成り果てちゃったけどねぇ~」
「知らなかった…。でも、それと今回の話はどういう意味があるの?」
シャロンは少し警戒を解いてレラに訊ねる。
「あたしの一族は初代魔王から“淀み”を排除せよと命を受けてる。今回、ここにあたしが来たのは“淀み”を浄化するため。…シャロンが多分遭遇した奴。でも、まぁ、普通は見えないんだけどねぇ」
「え?でもアンリには見えてたみたいだけど…」
自分が倒れる直前、アンリは見えない何かを見て怯えていた。
あれが“淀み”だったのだろうか…。
シャロンの言葉にレラは少し驚いた顔をした。
「へぇ?あたし達以外で“淀み”を見れる奴がいるんだ。すごいねー」
「アンリは元々魔力に敏感だからわかったのかも。前にも、まだ魔力が目覚める前の子に知り合った時も主魔法が何だかわかってたみたいだし…」
「それって結構すごいんだよ?あたし達は魔王からそういう力をもらってるからわかるんだけど。…そうだねぇ、あんたが魔族に近い魔力を持ってるとかねぇ」
「!?」
シャロンはぎょっとして目を見開いた。
そんなことを言われたのは初めてだった。
レラには最初から呪いの事を気づかれていたようだ。
「人間の魔力を魔族の魔力が少しずつ侵食していってる。前よりも魔力が強くなったんじゃない?」
「…」
シャロンは何も言わずに黙り込んだ。
レラは特に気にすることもなく、少し得意気に笑うと話を続ける。
「“淀み”がわかるってことはそこら辺までわかってるんだろうねぇ…。あたし達意外でそんな人会ったこと無いなぁ。一回会ってみたい。アンリって子に。…あぁ、話を戻さないとね。で、“淀み”を浄化しに来たんだけどそこで…」
レラはそう言った後、少し苦い顔をして笑う。
「穴に落ちた。それがファラの道って言ってそこに落ちた者はドワーフのために生け贄として殺されるんだとさぁ」
「なるほど…って、私達のこと?」
「ん、そうなるね」
「ええええええっ!?」
絶叫する、シャロンにレラは耳を塞ぐ。
「でっかい声を出してぇ~」
「だ、だって…!」
「ファラってドワーフの守り神でその道を通って落ちてきた者は神に選ばれたとみなされ、神に捧げられるんだとさ。そんなわけでかれこれ一週間ここに閉じ込められてまぁす。いやぁ、一週間“淀み”を放置するとここまで人に影響を及ぼすまで成長するとはねぇ~。浄化できなかったのが無念だねぇ」
レラはそう言って「アハハ」と乾いた笑い声を挙げた。