パラディス
額に何か湿ったものを押し当てられるのを感じた。
それも何か凄く生暖かい。
「…ん」
目を開くと、豚のような鼻が視界に入った。
「へ?」
何で豚の鼻?
そんな疑問と同時に豚の鼻が少し放れて変わりにつぶらな瞳と目に合う。
「…」
「…」
「…」
「ぷきゅ?」
「きゃああああっ!!魔物!」
シャロンは驚いて飛び起きると、顔にしがみついている何かを鷲掴みにしてぶん投げた。
「きゅー!」
「おわっと!酷い事するなぁ…。せっかくティーが助けてやったのに」
そう言いながら、慌ててシャロンがぶん投げた生き物を壁にぶつかる寸前にキャッチしてフードの人物は文句を言う。
その人物の声でシャロンの記憶が段々甦ってくる。
そういえば自分は確か穴にアンリと共に落ちてそれから二股に別れた道ではぐれて…。
「あんたは多分、ファラの道とか言う変な穴に落ちたんだろうねぇ」
一人納得したように言う、その人物をシャロンは凝視して突然叫び出しだ。
「思い出した!あんた魔族でしょ!!どうしてこんなところに…!」
気絶する前に見たあの黄色い瞳。
間違いなくあれは目の前の人物のものだ。
シャロンの言葉にフードの人物は手を前に差し出して、静止させた。
「全く、うるさいなぁ…」
そう言ってその人物はフードを取るとため息をつき、乱れた短い深緑色の髪を軽く整えた後、黄色い瞳で真っ直ぐシャロンを見つめた。
「そ、あたしは魔族。レラ・ノーバディー。レラって呼んでくれて構わないよ」
「わかった。じゃあ、レラって呼ぶねって…勝手に名乗ってんじゃないわよ!!」
レラは耳を塞ぎ、キーキー喚くシャロンをやり過ごす。
「落ち着きなって。…名前は?」
「…シャロン・アシス…」
騒ぎ疲れたのか、乱れた呼吸を整えながら不機嫌そうにシャロンは名乗った。
「シャロンね、よろしく。さぁて、シャロン?あんたがここに来る前どんな状態だったか覚えてる?」
「…ここに来る前?」
シャロンは首をかしげて直ぐにハッとした。
「私、風邪を引いてたはずなのに…」
「だろうねぇ~。そもそもあんたのは風邪じゃない。“腐敗症”って言う病気で自分の中の魔力が文字どおりどんどん腐敗していくんだよねぇ」
「じ、じゃあ、私の魔力も…!」
「うん、腐ってたから浄化した。この子で」
そう言ってレラは自分の背中に隠れてさっきから“ぷーぷー”怒ってる小さくて丸っこいフワフワな毛に覆われた豚の鼻を持ち、つぶらな瞳をした生き物を差し出した。
「げっ!さっきの魔物!!」
「ぷきゅん!ぷーぷー!!ぷー!」
湯気が頭から出るんじゃないかと言う勢いで、レラの手の上でぴょんぴょん跳ねながら怒っている。
「この子は穢れを喰らう幻獣、パラディスの子供でティーって言うんだ。この子があんたの中に入り込んでた“淀み”を食べてくれたから助かったんだからねぇー?お礼をいいなよ?」
「ぷぅ」
無い胸を張るパラディスと呼ばれる子供のティーをシャロンは不思議そうに見つめる。
「淀み?パラディス?…ごめん、話が全然ついていけない…」
「頭悪いなぁー。今から説明するからしっかり着いて来るんだからなぁ?」
「ぷ!」
シャロンはティーをぶん投げたい衝動を堪えると、レラの話に耳を傾けることにした。




