ファラの道
地下水を湛えた小さな泉は地上から降り注ぐ月明かりでキラキラと輝いていた。
そんな泉の前で、褐色の肌を持ち膝をつき手を組む女性が祈りを捧げていた。
「どうか…ドワーフの守り神ファラよ、我らを御守りください…」
静かな広場で響く女性の声。
しばらく祈った後、女性は立ち上がると悲しそうにため息をついた。
瞳と同じ灰色の少し波打った長い髪を耳に掛け直す。
その時、泉に石がいくつか落ちてきた。
「何…かしら?」
いつもは石なんて全く落ちてこない静かな場所なのに。
女性は不思議そうに泉の上を見上げると目を見開いた。
上から男性が落ちてきたのだ。
「大変!!」
女性の声と共にその男性は泉に大きな音を立てて、落下した。
慌てて泉に飛び込み必死に目を凝らして、男性を探す。
そして見つけた。
沈んでいく男性の姿を。
一度、水面に出ると大きく息を吸ってからもう一度潜り一気に男性の元へと向かう。
苦しさに耐え、何とか男性の腕を掴むと水面へと急ぐ。
「ぷはぁ!!…大丈夫ですか!?」
「…」
男性は気絶していて反応は無いが幸い、息はしていた。
女性は安堵のため息をつくと、岸へと男性を運び寝かせると焚き火を起こす。
「身体を暖めないと…」
といっても今身につけているものは全て濡れていて彼を暖める事のできる物はこの火だけだ。
「…ん?…ここは…」
不意に背後から声が聞こえ女性が慌てて振り返ると男性が目を覚ましてこちらをみていた。
「あ、あの!大丈夫?」
女性の顔を見て男性はキョトンとする。
それで女性は気づく。
「私は、グリノリア・ノーグ。貴方はこの泉の上から落ちてきたのよ?」
そう言って女性…グリノリアが指差す方を見て男性は頷いた。
「そっか、俺はあの時気を失って…。俺はアンリ。アンリ・ローレンス。助けてくれてありがとう。…あんたはドワーフ?」
灰色の目と褐色の肌を見てアンリが訪ねる。
「ええ、そうよ。…ところでどうして上から?」
「穴に落ちたんだ。足元に気を回せなくて…」
アンリはそう言ってグリノリアにここまで来た経緯を話す。
その話を聞いていくうちにグリノリアの顔が段々、青ざめていく。
「どうした?」
「魔力が腐敗した黒い物…。それから、もう一人とここに落ちてくるまでに二股に別れた道で離れ離れになったのよね?」
「あ、ああ…」
「そう」
グリノリアは目を伏せた。
「その方の事は諦めた方がいいわ…」
その言葉にアンリは目を見開く。
「何言ってんだよ!?一体どういう意味だよ!」
グリノリアは言いにくそうな顔をする。
「その道は多分、ファラの道」
「ファラの道?」
「そう、ファラは私たちドワーフの守護神。そのファラの道を通ってきた者はね…」
アンリは固唾を飲んでグリノリアを見つめた。
グリノリアは絞り出すような声で言う。
「生け贄にされるのよ。…つまり、殺されるの」




