頼み
それから、シャロンの看病をしているうちに夜になった。
だが、シャロンの様態は一向に良くならない。
熱冷ましの魔法薬を飲ませているのに全く効果はみられず、アンリでもお手上げ状態だった。
「どうしたら…」
アンリはため息をついて、手に持っていた枝を焚き火の火の中へ放り込む。
パチンっと音を立てて燃えていく。
「…ん、アンリ…」
今まで眠っていたシャロンがゆっくり目を開いてアンリの名を呼ぶ。
「どうした?喉が渇いたのか?」
「そうじゃなくて…」
シャロンはアンリの手を掴んだ。
「お願いがあるの」
「お願い?」
「私を置いて先に行っててくれる?」
シャロンの言葉にアンリは驚くと直ぐに首を横に振る。
「そんなことできるわけないだろ」
「…これ以上アンリの足を引っ張りたくないの…。今の状態だと、動けないし…。お願い」
熱で潤んだ目で懇願してくるシャロンにアンリは諦めたように頷いた。
「わかった…」
「ありがとう、ごめんね」
アンリは何も言わずに立ち上がると、焚き火にシャロンの為に汲んできた水を掛けて周りの荷物を全て鞄に詰め込んだ後、シャロンを抱き起こした。
「え、ちょ、ちょっと…何やって…」
「…」
アンリは何も言わずに立たせると、そのままシャロンを背負い洞窟から外へと出た。
「月明かりがあるけど、ここら辺はドワーフの住みかだからな…足元を照らしとかないと危ないよな」
『光よ、暗き足元を照らし道しるべとなれ』
アンリの呪文によって光の球が足元に現れると、煌々と行く道を照らした。
「よし、行くか。…辛いと思うけど、朝まで我慢な」
「何してるのよ…!これじゃあ、アンリが…」
「俺は大丈夫。夜通し歩けば朝にはリースポートに着く。そこの医者がダメならグランファルーゼに行けば何とかなる。だから、それまでは耐えろよ」
アンリはシャロンに元気付けるように言うと夜の森を歩く。
「何で…置いて行ってって言ったのに…」
「出来ないだろ、そんなこと。シャロンは俺の大切な仲間だ、絶対に見捨てない。だから、お前もそんな頼みするなよ」
「…馬鹿ね」
シャロンはアンリの肩に頭を置いて少し嬉しそうに呟き、最後に小さな声で「ありがとう」と囁いた。