黒い物
アンリにしかわからない何かがあるのかもしれない。
そう思ったシャロンは一人頷き「ちょっと待ってて!私見てくる」とアンリに言って、指差す方へと歩いて行く。
「シャロン!待てって!!」
「大丈夫!こういうのって意外とわからない人が行った方がなんともないんだって」
笑いながら言うシャロンの手をアンリは掴んだが、その手は振り払われてしまった。
何の躊躇もなく行ってしまうシャロンを見ていると、本当に何も感じ無いのだと実感するのと同時に自分の考えすぎなの出はないかと思えてくる。
最近、いろいろありすぎで敏感過ぎるのかもしれない。
アンリが苦笑して肩の力を抜いたその時、ギョッと目を見開いた。
さっきまで何も無かったシャロンのすぐ近くに黒くてブヨブヨした得たいの知れないゼリー状の巨大な塊が現れたのだ。
その黒い塊は見ただけで吐きそうな程の嫌悪感しか感じない。
そんな物の近くに平然と立つシャロンの元へアンリは慌てて駆け出した。
「シャロン!!後ろ!!」
シャロンは自分の元へ駆け寄ってくるアンリに首をかしげて後ろを振り返るが、なにも見えない。
一体アンリは何を見てそんなに慌てているのだろうか?
「…何にもないけど…?」
見えない何かでもあるのだろうか?
目の前にはただ森が広がっているようにしか見えないが。
シャロンが手を伸ばしてみようと、前に手を動かそうとした刹那後ろから突然アンリに抱き締められるような形で手を掴まれた。
「え!?ちょ、ちょっと何!?…ひぅ!」
アンリに抗議しようと口を開いたら何かを飲み込んでしまった様で、喉に何かが張り付いたような違和感を覚えてシャロンは首をかしげて喉を撫でる。
アンリも心配そうな顔をする。
「大丈夫か?」
「うん?…うん、とりあえずは?」
「よかった…とにかくここから離れよう」
アンリはシャロンの背後でさっきから蠢く黒い物体を睨み付けたままそう言って、シャロンの手を引いて走り出した。