グランファルーゼン
「さて、そろそろ行くか」
「うん!ちょっとお皿とか濯いでくる!」
再び川へと向かっていくシャロンの背中を見送ると、リラースタンで買った地図を広げるとアンリは次の町までの道のりを確認する。
「このまま順調に行けば…明日の昼には着くな。で、明後日には王都グランファルーゼンだ」
「グランファルーゼン?」
戻ってきたシャロンが首をかしげながら、皿を綺麗に拭いて鞄にしまうと訪ねた。
アンリは呆れ気味にため息をつく。
「国家公認魔法使い目指してたなら、王都の名前くらい覚えとけよな」
「グランファルーゼンって王都の名前なのか!…って!わ、私だってちゃんと試験受けるって決まれば勉強くらいしたわよ!」
「はいはい。…じゃあ、行くか」
「もー!信用してないでしょ!?」
むぅー、と頬を膨らませるとアンリと共に歩き出す。
「で、グランファルーゼンには後どれくらい?」
「明後日には着く。その前に港町リースポートに寄らないとな」
「リースポート?何で?」
「…グランファルーゼンってどんなところか知ってるか?」
案の定、シャロンはキョトンとして「全然知らない」と首を横に振る。
「グランファルーゼンは海の真ん中に浮かぶ都市なんだ」
「島なの?」
「んー、島っていうか空中都市かな?」
「空中都市…!」
シャロンは目を丸くした。
空中に浮かぶ都市だなんて想像がつかない。
「魔法で島を浮かしてるんだってさ、外敵に攻撃される心配もないし、世界で一番安全な場所だとか言われてるらしい。…で、グランファルーゼンに行くにはリースポートから出てる魔導船に乗らないと行けないらしいんだ」
「…田舎者の私には想像の着かない用語ばっかりね。さすが王様の住む街ね」
「そうだな。行くのが楽しみだよな!リースポート周辺の海域には人魚族もいるらしいし」
「人魚族かぁー、確か歌声が素敵なんだよね…ってうわっ!」
突然、片足が地面に空いた穴にズボッと落ちバランスを失い倒れそうになるシャロンを慌ててアンリが支えると、二人で力を合わせて足を土の中から救い出す。
「あー…ビックリした」
「だから、最初に注意しただろ?この辺はドワーフ族の棲家だからそこら辺に穴が空いてるから気を付けろって」
そう言えばそんなことを言われた気もする。
シャロンは誤魔化すように笑うと、アンリの手を借りて立ち上がった。
「アハハ、ごめん」
「忘れてたか…。ドワーフは鉱山を一帯棲家にしてるから、この辺はその辺あっちこっち穴が空いてるんだ。人がスッポリ落ちる穴まであるから気を付けないと」
「わかってるって。ドワーフが住んでるって事はここは鉱山なのね」
「ああ、魔石が採れるんだ。ここのドワーフ達はそれを採掘してるんだ」
話を反らすための質問にアンリが生き生きと答え始めたので、シャロンは内心にんまりとして話を聞く。
「魔石なんか採取してどうするの?」
「ドワーフは竜族同様、宝石好きでな。魔石を人間たちに売り飛ばして宝石を買うのさ。…ドワーフには魔力なんか無いし魔石なんて、興味が全くないからな」
「へぇー。そうなんだ」
これを説明して、どれだけ覚えてるのだろう。
なんて、ことを考えてアンリは少し可笑しくなって笑った。
でもこうやって自分の知っている知識を誰かに教えるのは楽しい。
「う…」
その時、不意に背筋に冷たいものが流れアンリは立ち止まった。
「アンリ?どうしたの?」
シャロンが心配そうにアンリの顔を覗きこむ。
「…なんか、嫌な感じがする…」
「嫌な感じ?」
「なんか…前からか?…向こうから嫌な感じがする…」
アンリがそう言って前方を指差すが、シャロンには全くわからなかった。