断章
私はずっと覚えてる。
きっと、一生忘れない。
・・・・・・
自分が壊れた日を私は、忘れない。
夕日が赤く染める世界。
魔法の稽古の帰り道、私はいつもよりもテンションが高かった。
私を嫌うこの村に住んでいて今日と言う日は最高の日。
だって、今日は私の誕生日だもの!!
家で大好きなお父さんとお母さんが、私のためにご馳走とプレゼントを用意して待っていてくれてる。
親友と別れた私は、走って家に帰った。
家に着いたとき、明かりが灯っていなかったこと疑問は感じた。
でも、お父さん達が驚かせようとしているのかもしれない。
私は明るい気持ちで玄関の扉を開いた。
「ただいま!!」
聞こえるように大きな声で言ったのに、誰も返事を返してくれない。
しんっと静まり夕日で血のように赤く染まる家。
急に不安になってきた。
「お父さん!お母さん!!」
堪らなくなって叫び声をあげて家の中を駆け出した。
居間にも、私の部屋も、お風呂場にも、物置も居ない。
…残るのはお父さんとお母さんの部屋。
「お父さん…?お母さん?」
不安を押し殺してゆっくり扉を開けてみた。
夕日に照らされた真っ赤な世界。
そこには天井から下げた紐に二人仲良く首を吊る両親がいた。
ガクンって膝の力が抜けた。
頭がついて行かなくて声もでない。
ただ、何でなのかわからなかった。
どうして…?どうして二人は死を選んだの?
もう、どうしたらいいのかわからない。
誰でもいい。
私を誰か…誰か、助けて…。
その時、誰かが扉を叩く音が聞こえた。
ああ…、私を助けに来てくれたんだ。
私は藁にもすがる思いで立ち上がって、玄関へと向かった。
「…っ」
コロナはゆっくり目を覚ました。
目元に触れると、濡れていた。
「人形になっても涙って出るのね…」
コロナはそう言って窓ガラスに頭をコツンとぶつけ、あの人同じように夕日に染まる赤く輝く深淵の森を眺めた。
人形に成り果て、オルガという魔族に連れてこられたのは自分と同じように造られた人形達が集うこの狭い部屋。
そこにずっと閉じ込められていた。
「いつになったら出して貰えるの?…ああ、早く会いたいね。シャロン」
コロナは愛おしそうにそう言って、再び目を閉じた。