いつか
「アンリ!!シャロン!!」
不意に背後から聞こえる声に、二人は驚いて振り返ると少し離れたところで息を切らしてルヴィカが立っていた。
「ルヴィカ…」
辛そうな顔でルヴィカを見るアンリを庇うように、シャロンが前に出る。
ルヴィカに街の人たちを呼ばれて再び戦いにでもなったら、アンリが今度こそ人を殺してしまうかもしれない。
そうなる前にルヴィカには眠ってもらおう。
シャロンが睡眠を促す魔法を詠唱しようとした刹那、ルヴィカが再び叫んだ。
「ありがとう!!」
その言葉に二人は拍子抜けしたように、その場に立ち尽くした。
「ファリスから聞いた!!アンリがおいらを助けてくれようとしたことも全部!!…ありがとう!!」
あのお喋りめ…!
アンリとシャロンが同時にそんなことを思いため息をつく。
それから、アンリは首を横に振る。
「俺はなにもしてないよ」
「そんなことない!アンリのおかげでおいらも…父さんも救われたんだ!!それなのに酷いことばっかり言ってごめん!!」
ルヴィカはそう叫んだ後、少し恥ずかしそうな顔をして頬を掻くと意を決したように再び口を開く。
「おいら、ファリスに魔法をちゃんと習うから!それでいつか父さんみたいな建築家になれたらアンリとシャロンの新居を作るから!!」
「おー…新居か」
「新居!?」
アンリが楽しそうに笑う一方で、何故か顔を赤くするシャロン。
そんなシャロンに気づかないまま、アンリはルヴィカに大きく手を振った。
「楽しみにしてるよ!…街を壊して悪かったな!!」
ルヴィカも手を振り返して笑う。
「街は皆で直すよ!また来いよな!」
「ええ!その時はまた案内よろしくね!」
「じゃあな!」
今度こそ二人はルヴィカに背を向けて森の中へと入っていく。
「楽しみだな、ルヴィカが作る新居」
アンリの言葉にシャロンは再び顔を赤くすると、咳払いをした。
「ア、アンリ?ルヴィカが言ってる新居って私たち二人で一軒って意味だと思うんだけど…」
「そうなのか?でも、シャロンと暮らすのも楽しそうだな」
無邪気に笑うアンリに心臓がギュッと何故か締め付けられる感覚がして、シャロンは慌てて話題を変える。
「ほ、ほら!早くどこかいいとこ見つけて怪我の治療しましょ!」
「そうだな」
シャロンはアンリに肩を貸しながら、気づかれないように静かにため息を着くのだった。
アンリとシャロンを見送った後、ルヴィカは少し寂しそうな顔をして街へ戻ると、城壁の入り口でファリスが待っていた。
「ファリス…」
「お礼は言えたかい?」
「まあ、一応は」
「そっか、よかったね」
「…うん」
少し元気の無いルヴィカにファリスは苦笑して頭を撫でた。
「今日はルヴィカの好きな唐揚げでも作ろうか」
「え!?本当に!?」
「うん、僕も食べたかったし。…その前に皆の元に戻らないとね」
ファリスは楽しげに言うと先に歩き出す。
そんなファリスの背中にルヴィカは小さな声で「ありがとう」と囁いた。
「ん?何か言ったかい?」
「何にも!!」
いつか、一人前になったらファリスにちゃんと礼を言おう。
ここまで育ててくれたこと、ずっと支えたくれたこと。
それまでファリスには、自分が感謝してることは内緒にしておこう。
ルヴィカはファリスの隣に駆け寄ると、悪戯っぽく笑った。