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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第五章
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真実

 ファリスの声を振り切り広場から逃げ出すように走りながら、シャロンは奥歯を噛み締めた。


 アンリの馬鹿…!

 なんでいつも、あんたは…!


「なんでいつも!…って、うわっ!」


 突然、足がも為す術もなくそのまま顔から転倒した。


「痛い…!もう!こんな時に転けるなんて!!」


 悪態をつきながら、身体を起こすと転んだせいで擦りむけた膝の上に水が滴り落ちた。

 空を見上げると、曇天になっていてポツリポツリと雨が降ってきた。


「雨…」


 だから、視界が滲んでよく前が見えないのか。


 シャロンは目を擦ると、ズキズキ痛む足を無理矢理立たせて走り出そうとしたその時、腕を誰かに捕まれた。


「!?」


 驚いて振り向くと、そこには息を切らせたファリスがいた。


「シャロン!」

「放して!!」


 シャロンがファリスの手を振りきろうともがくが、全然振りきれない。

 それどころか、掴む力がさっきよりも強くなる。


「シャロン、お願いだから正直に話してくれないかな?…アンリの暴走は全部…演技だったんだよね?」


 シャロンはその言葉に目を見開くと、黙って俯く。


「やっぱり…。シャロンの様子とか見てておかしいと思ったんだ。…ルヴィカの為、だよね?」

「そうよ!ルカさんの仕掛けた魔法とルヴィカの中に眠る魔力に気付いたアンリが計画したの!…ルヴィカを助けたいって…自分が悪役になってでもって言って!!」


 自分の手から逃れようと力任せに激しく腕を動かすシャロンにファリスはあるものを手に握らせてから、手を放した。

 シャロンは驚いて手の中に握らされた物を見る。

 それは小さな小瓶だった。


「魔法薬だよ。普通のより強力だからアンリの怪我にも効くと思うんだ」

「あ、ありがとうございます…」

「お礼を言うのはこっちだよ、本当にありがとう。ルヴィカの事を救うだけじゃなくて、ルカの事まで救ってくれて本当に…ありがとう…」


 そう言って笑うファリスは泣いているようだったが、雨のせいで泣いているのかわからない。

 シャロンは頭を下げてから、ファリスの元から走り去る。

 あんな怪我をしているのだ。

 一刻も早くアンリの元へ行ってこの薬を渡してあげたい。


「本当に…アンリのバカ」


 乱暴に目を擦ると、アンリと待ち合わせした場所まで急ぐ。




 ファリスは走り去って行くシャロンを見送ると、広場へ戻ろうと振り返った。


「ルヴィカ…」


 そこには、困惑したルヴィカが立ち尽くしていた。


「さっきの話ってどういう意味なんだよ…?」

「話を聞いていたんだね」

「答えろよ!ファリス!!演技ってどういうことだよ!?」


 ファリスは困ったように少し考えた後、頷いた。

 きっと、今一番真実を知るべきなのはルヴィカなのだ。

 ルヴィカがなにも知らなければ、アンリの想いが全て無駄になってしまう。


「あの騒動は、アンリがルヴィカの為にわざとやったことなんだ。ルヴィカが街の人々に受け入れてもらえるようにって」

「なんで…なんでそんなことを…?おいら達、一昨日会ったばっかりなのに」

「これはただの予想だけど…アンリとルヴィカの境遇が似てるからじゃないのかな?」

「え?」

「アンリも父親のせいで故郷の村で迫害されてたって言ってたんだ。きっとルヴィカを自分と重ねたんじゃないかな?…だからこそ、救いたいって思ったのかも」


 ファリスの言葉にルヴィカは絶句した。

 自分と似た境遇の人のために、下手すれば致命傷になりかねない怪我をしてまで助けようと思うだろうか?

 普通なら絶対思わない。


「おいら、アンリに謝らなきゃ…」


 なにも知らないで酷いことを言ってしまった。


「まだ、きっと走れば間に合うよ」


 ファリスが優しく言う。


「行っておいで」

「うん!」


 ルヴィカは頷くと慌てて走り出す。

 自分の横をルヴィカが通った瞬間「ルヴィカ!」っと呼び止めた。


「何?」


 早く行きたいのにっという顔をしているルヴィカにファリスは苦笑した。


「もしも、君が魔法の勉強をこれからしたいというのなら、僕が教えてあげるよ」


 ファリスの予想していなかった申し出にルヴィカは一瞬驚いた後、ニヤリと笑う。


「考えとくよ!!」


 それだけ言い残してアンリの元へ向かうルヴィカの背中をファリスは嬉しそうな顔をして見送った直後にため息をついた。


「今度は君かい?…ロナエ」

「ばれてたか」


 仕方ないというような顔で物陰から出てきたロナエは、ファリスの横に並ぶとルヴィカか走って行った方を見る。


「全て仕組まれていたとは、予想外だったな」

「そうだね。…街の皆に言うつもりかい?」


 そうなれば、ルヴィカは英雄から英雄になりたかった街を破壊した極悪人になってしまう。

 

 皆に言われる前に、ここで殺してしまうというのもありかもしれない。


 物騒な事を考えているのが、ばれたのかロナエは苦笑して首を横に振る。


「言わないさ。…言えないだろう。そんなことしたら、また一つ罪が増えてしまう」

「…やっぱりあの事故は…」

「違う。信じてもらえないだろうが、あれは本当に運の悪い事故だったんだ。…もちろん、ルカのせいでもない。それを知っていたのに私はルカに対する嫉妬心で遺族を焚き付けルカが今までしてきた事に傷をつけてしまった。…ルヴィカにも酷いことをしてしまった。後悔はしていたが、手に入れてしまった名声を捨てることが出来なかった」

「ロナエ…」


 隣に立つロナエに視線を向けるが、横顔で表情がよくわからない。

 ファリスの視線に気付いたロナエもファリスの方を向くと、自嘲気味に笑う。


「今から後悔していると言っても無駄か。…建築家を辞めてこの街を出ようかと思ってる。せめてのもの罪滅ぼしだな」

「ダメだよ」


 ファリスは真剣な顔をして、ロナエを見つめてもう一度「ダメだよ」と言った。


「何故引き止める?私が居なくなった方がお前も嬉しいだろう」

「罪の意識があるなら、逃げることは許さない。償う気があるなら街の修復をして償えばいい」

「…」


 唖然とするロナエにファリスは表情を柔らかくして、笑った。


「…って、きっとルカなら言うと思うんだ。だから直してくれないかな?アンリが派手に暴れてくれたからね。早く復旧してくれないと困るんだ」

「お前はいいのか?」

「君の気持ちがわかったからね。…僕もずっと疑っててごめん」


 ロナエはふんっと鼻を鳴らすと、少し恥ずかしそうに頬を掻く。


「ところで、ロナエ」

「何だ?」

「教会は取り壊して建て直すのかい?」


 満面な笑みを浮かべて質問してくるファリスを軽く睨み付けると、ため息をついてロナエは笑った。


「壊さないさ。…あれはジオーグの宝だからな」

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