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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第五章
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発狂

「アンリ!!」


 シャロンが悲鳴に近い声で叫んだ瞬間、アンリを飲み込むように下から水が湧き上がり巨大な水柱となって炎を消す。

 水柱が消え去ると、服が所々焼け切れたアンリががっくりと膝を付き右腕を押さえる。

 右腕の火傷が一番酷く、肩まで服が熔けてなくなり赤くただれていた。 


「…っ」


 アンリは辛そうに顔を歪ませると身体を震わせて痛みに耐える。


 その様子を離れたところで見ていたファリスは「信じられない」と小さな声で呟く。

 ルヴィカに魔力があったなんて今まで気づかなかった。


「おい、ファリス!今ならあの魔族を仕留められるんじゃないのか?」


 隣にいたロナエの一言で、ファリスはハッとする。

 アンリがこの街で魔族として暴れている以上、ジオーグの守護者として退治しなければならない。


「…呪いに屈してしまったのかい?アンリ…!」


 悔しそうにそう言ってアンリに指をさして、己の主魔法である土の魔法を発動させ巨大な岩を宙に作り出すとアンリに向かって放つ。

 放たれた岩は、寸分の狂いもなくアンリに当たる…はずだったが、ぶつかると思った矢先に突然雷鳴が轟きそれと同時に雷が岩に落ちて粉々に砕いた。


「な!?」


 あの雷が魔法だとファリスは直ぐに気づいたが、一体誰が放ったのかわからない。

 アンリの魔法ではないことはわかるのだが…。

 その人物を探しだそうと周囲を見渡すと、こっちを睨んでいるシャロンと目が合った。


「シャロン…?」


 さっきの雷はシャロンの主魔法だと理解したが、何故シャロンが妨害してくるのか理解が出来ない。

 ファリスがシャロンの元へ向かおうとするのと同時にアンリが当然大声で笑い出した。


「なんだあいつ、狂ってるのか…?」


 狼狽えるロナエの言葉通り、アンリが狂っているようにしか見えなかった。

 空を見上げてひとしきり笑った後、アンリはゆっくり立ち上がる。


「あー、笑った。そうか、ルヴィカは反射の主魔法を持ってたのか。まさかここで覚醒するとは思わなかった」


 そう言って、アンリは氷月華の先を空に向けた。


「…人間風情がこの俺に傷をつけてただで済むと思うなよ?」


 まるで氷のように冷たいアンリの声色にルヴィカはゾッとした。


「お前を殺す前に、お前の大切なものから壊してやるよ」

「大切なもの…って!?」


 アンリが何を言っているのか、瞬時に理解したルヴィカが顔を青ざめさせた。


「やめろ!」

「もう、遅い!!」


 アンリは氷月華の魔力と自分の魔力を使い、無数の氷の矢を宙に浮かべると氷月華を振り下げ一斉に矢を教会へと飛ばした。

 その光景を、教会の中に避難して窓から見ていた人々が悲鳴をあげる。


 父さんが作った大切な教会と皆を守らなきゃ!!


 ルヴィカはさっきと同じように魔法を発動させようとしたが、魔法が発動される感じが全くしない。

 さっきの一回で、魔力を使いきってしまったらしい。


「嘘だろ!?」  


 ルヴィカが顔を引きつらせ、教会の方を振り返った。

 氷の矢は教会へと勢いよく飛んでいく。

 その場にいる人々が絶望した刹那、教会が淡い青の光に包まれ、教会を守る壁のように突然巨大な魔方陣が現れると全ての氷の矢を受け止めた。

 そして、魔方陣が一際輝きを増すと全ての氷の矢をアンリに反射した。


「…っ」


 氷の矢が雨のようにアンリに降り注ぎ、姿が見えなくなる。

 しばらくして矢の雨は止み姿を現すと、アンリは身体をふらつかせて立っているのもやっとの状態だった。


「弱ってるんじゃないのか?」

「今なら殺れる!」


 誰かのその一言で、怯えきっていた空気がガラリと変わり怒りと憎しみの熱気が広場を満たした。

 そして、人々が一斉にアンリを取り押さえようと駆け出したその時、アンリの足元から黒い影のようなものが吹き出してきた。

 それを見た人々は、再び恐怖にかられその場に凍りつく。

 吹き出してきた影の中にアンリは倒れ込むとそこまま影に飲み込まれ、影と共に姿を消した。


 しんっと広場を静寂が支配する。

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