対峙
何が起きているのかわからない。
何で…何で…アンリは…おいらを…。
「ルヴィカ!!」
シャロンの叫びで我に帰った時にはもう目の前に氷の塊が迫ってきていた。
『我らを魔の力から守れ!!』
シャロンが呪文を唱えながら、ルヴィカの前に立つのと同時に透明の壁が現れ氷の塊を受け止めた。
「…っ!ルヴィカ、逃げて…!私の力だと防ぎきれない…!」
シャロンの言う通り、透明の壁に蜘蛛の巣の様なヒビが入り、そしてアンリが放った氷と共に砕け散った。
その衝撃で、シャロンとルヴィカは後ろに吹っ飛ばされ地面に叩きつけられる。
「うっ…」
「痛た…シャロン!大丈夫!?」
ルヴィカに助け起こされ、シャロンは頷きさっきので斬れた頬の血を拭う。
「大丈夫、アンリを何としてでも止めなきゃ」
シャロンはユエルスをブレスレットから弓に変えると、アンリに狙いを定めて雷の矢を装填する。
「俺と殺り合うつもりか?シャロン」
「そうよ!…これ以上こんなことはさない!」
シャロンはそう宣言すると、矢を放つ。
矢は寸分の狂いもなくアンリ目掛けて飛んでいくがアンリの出した分厚い氷の壁に阻まれ、壁を貫くことなく霧散した。
「お前に俺は殺せない」
アンリが手を降りかざすのを見て、シャロンはサッと顔を青ざめさせるとルヴィカを抱き抱えて、後ろへ飛び退く。
それと同時に氷の柱が地面を突き出してきた。
「…シャロン、少しだけでいいから静かにしててくれないかな?後でちゃんと相手してあげるからさ」
「嫌よ!…痛っ」
シャロンは怒鳴ると立ち上がろうとしたが、足を痛めたのかうまく立つことが出来ない。
「シャロン…」
ルヴィカが心配そうに寄り添う。
「ごめん、心配かけて…」
辛そうに顔を歪ませるシャロンを見てルヴィカは、力強く頷くとシャロンの前に立って両手を広げた。
「アンリ!お前は友達だって思ってたのに何でこんなことするんだよ!!…この街やシャロンをこれ以上傷つけるなら、おいらは絶対アンリを許さない!!」
ルヴィカは震える足を無理矢理立たせて、泣き叫んだ。
やっと出来た友達だったのに。
この二日間は一体なんだったのだろう…。
胸の中で何かがざわめく。
それが余計にルヴィカを苦しめた。
アンリはそんなルヴィカを見て、一瞬だけハッとしたような顔をして直ぐに笑みを作る。
その時、周囲に隠れながら様子を見守っていた人々が騒ぎ出した。
アンリが視線をそちらの方に向けると、自警団が広場に駆けつけてきた。
「魔族か!今すぐ殺してくれる!!」
自警団のリーダーだと思われる男が叫ぶ。
その一言でアンリの表情は消え去り氷月華を鞘から引き抜く。
「魔力無いやつは黙ってろ!!」
氷月華を自警団達の方へ振りかざすと、空を切り裂いた衝撃が氷の刃となって自警団達を襲う。
「ぎゃああああっ!」
自警団は悲鳴をあげてその場から逃げ出す。
さらにだめ押しとばかりに、巨大な氷の塊を路地の方へと放ち自警団が出てきた路地を破壊した。
「たく、邪魔ばっかり入るな…」
舌打ちをしながら、アンリはルヴィカの方へと視線を移そうとすると視界の端で何かが動いたのに気づいた。