困惑
ルヴィカは広場につくと、辺りを見回すがそこにはアンリもシャロンもいなかった。
「あれ、おいらよりも早く出ていったはずなのに…」
教会の中も覗いてみたが、やっぱりいない。
とりあえず噴水の縁に座って待つことにした。
「まさか、おいらに何も言わずに行っちゃったのかな…?」
そう言って、すぐ考え直す。
二日間しか一緒にいなかったが、それでもアンリとシャロンは友達だ。
きっと別れの挨拶くらい…。
「してくれると思うんだけどな…」
自信無さげにポツリと呟いた。
その時、地面が揺れる程の大きな爆発音が街中に鳴り響きルヴィカは驚いて飛び上がった。
「な、何!?」
ルヴィカは爆発音がした方を向くが何が起こったのか全くわからない。
それは周囲の人々も同じようで、唖然とした表情で音の方を見つめている。
「…もしかして、魔物が入り込んだ…?」
もし、そうなら早くファリスを呼ばないと…!
ルヴィカがファリスを呼びに行こうとするよりも早く二度目の爆発音と共に多くの人々が、広場に悲鳴をあげてなだれ込んできた。
「逃げろっ!」
「教会よ!教会に逃げればリスモス様が守ってくださるわ!」
「それよりも自警団を…」
「ファリスを呼んだ方がいいんじゃないか!?」
そんなことを口々に叫びながら教会へと入って行く。
「一体何が起きて…」
「ルヴィカ!!」
混乱している最中、腕を強く掴まれてルヴィカは驚いて腕を見ると血だらけのシャロンと目があった。
「シャロン!どうしたんだ!?その怪我…」
「ルヴィカ、逃げて…ここから早く…」
シャロンはそう言ってへなへなとその場に座り込む。
「何があったのか説明して!!アンリは!?」
「アンリは…アンリは…」
顔を真っ青にして涙を流すシャロンにルヴィカは嫌な予感しかしなかった。
まさか、アンリは死んで…。
そこまで考えて頭をブンブン首を横に振る。
「シャロン、落ち着いて。アンリがどうしたの?」
「る、ルヴィカと会う約束の前に…プレゼントを買いに行ったの…そ、そしたら…目の前で子供が転んで怪我をして…」
「?」
シャロンの言いたいことがいまいち、よくわからない。
子供が転んでどうしたと言うのだろうか。
困惑するルヴィカに、構うことなくシャロンは話を続ける。
「血を…血を見たの…」
「血?」
「そ、そしたらアンリが…突然…っ」
そう言ってシャロンが身体をガクガクと震わせた。
「呪いに負けちゃったのよ…!」
「呪いってどういうことだよ!?シャロ「来た!!」
ルヴィカの言葉を遮って、シャロンが悲鳴に近い声で叫ぶ。
シャロンの視線を追って、その方を見ると一人の男が逃げる人々の中、深くうつ向いて静かに立っていた。
「…アンリ…?」
そこに立つのは間違いなくアンリ。
だが、身に纏う空気は今までのモノとは全く違う
。
「アンリ、何があったんだよ…。これって…」
「ダメ!ルヴィカ、逃げて!!」
アンリに歩み寄ろうとするルヴィカの腕をシャロンが掴んで引き止める。
「全く、シャロンはうるさいな。黙ってることは出来ないのか?」
そう言ってアンリは顔をあげると、優しい笑みを浮かべた。
「ひっ…!」
「アンリ…?」
シャロンは目に涙を溜めて悲鳴をあげ、ルヴィカは弱々しくアンリを呼ぶ。
アンリの瞳が黄色く輝いていた。
「なんだよ、その目…。まるで魔族みたいじゃんか…」
自分でも何を言っているのかわからない。
アンリが魔族?
そんなはずない。
アンリは世間知らずで、優しい人間だ。
そんなアンリが魔族なわけ…。
「ルヴィカ、魔族みたいって…酷いな」
アンリは残念そうに肩をすくめた。
「俺は魔族なんだけどな」
「何の冗談だよ…アンリ」
「冗談なんか言ってないよ?」
アンリはそう言って氷の塊を出す。
「なぁ、ルヴィカ。お前ってどんな顔して死ぬのか俺に見せてくれないかな?」
アンリは楽しそうに笑うと、氷の塊をルヴィカに向かって放った。