贈り物
‐次の日。
ルヴィカが食堂へ来ると、ファリスが一人で紅茶を飲んでいるところだった。
昨日、アンリとシャロンは結構遅くまで何かやってたみたいだからまだ寝ているのだろうか?
そんなことを考えながら、ルヴィカはファリスの前の席に座ると焼きたてのスコーンを手に取った。
「おはよう、ファリス」
「おはよう、ルヴィカ。全く、朝ご飯を食べる前に朝の挨拶をしないと…」
「はいはい。小言が多いな…。って言うか、今日は朝食用意するの早いね」
「あぁ、アンリとシャロンが早く出るって言ってたから」
ファリスの言葉にルヴィカが驚いて立ち上がったせいで、椅子が大きな音を立てて倒れた。
それにファリスは怪訝な顔をする。
「ルヴィカ、お行儀が悪いよ?」
「んな、こと言ってる場合じゃないだろ!え?アンリとシャロンはもう出発しちゃったの!?」
「落ち着きなさい。この家からは出ていったけど、街からは出ていってないよ。…ルヴィカに渡したいものがあるから、広場に来て欲しいって」
ファリスはそう言ってテーブルに箱を置いた。
「僕にはこれをくれたんだ」
蓋を空けると、中には洒落たマグカップが二つ入っていた。
「ルヴィカとお揃いだって」
「え!?嫌だよ!」
「そんな全力で嫌がらなくても…。いいじゃん!せっかくアンリ達が用意してくれたんだから、使おうよ」
「えー…」
ルヴィカは渋い顔をしたが、とりあえず頷いた。
せっかくアンリとシャロンが用意してくれたのなら、使わないと申し訳ない。
「あ、そういえば、アンリ達が待ってるんだっけ?急がなきゃ」
ルヴィカはスコーンを無理矢理口に押し込み、紅茶でそれを流すと慌てて家から飛び出して行った。
「気を付けてねー。って聞こえてないか…」
ファリスは苦笑した後、立ち上がり食堂に置いてある小さな机の引き出しから写真立てを取り出した。
写真の中には二人の男が肩を組んで笑い、端にいる男が腕を組んで不機嫌そうな顔をしている。
肩を組んでいるのがファリスとルカで不機嫌そうにしているのは、ロナエだ。
「僕は守護者として街を守り、君は建築家としてこの街を守るって約束したのに僕にはこの約束を守れなそうだよ…。ルカが造ったこの場所を守るので精一杯だ」
ファリスはため息をつく。
自分とルカが理想ばかり話していると、いつも横からロナエが現実的な事を言ってたしなめてくる。 その関係性がちょうどよかったのに。
いつしか、ルカの実力が認められてきたせいでロナエの中で嫉妬と憎しみが増していきその関係は意図も簡単に壊れてしまった。
ロナエがルカを殺したい程、憎んでいることにもしも気づいていたら、ルカは死なずに済んだのだろうか…。
“もしも”なんて無いのについ考えてしまう。
「ルカ、どうしたら、ロナエの目を覚めさせてルヴィカを救えるんだろうね?」
ファリスは悲しそうに笑うと、写真立てを再び引き出しに閉まった。