プレゼント
体を起こしたシャロンは、驚きのあまりその場で固まる。
そんなシャロンに気付いてコロナは首をかしげた。
「シャロン?」
「こ、コロナ…」
自分の声が可笑しい程に震えている。
声の震えはどうにもならいし、体まで震えだした。
シャロンは震える手を、やっとの思いで伸ばすとコロナの後ろを指差す。
「そこにいる人は誰…?」
さっきまで、コロナと自分しか居なかったはずなのにいつのまにかコロナの背後に息を呑むほど美しい女性が静かに立っていた。
ゾッとするほど美しい顔立ちに鴉の濡れ羽を思わせる黒く肩の所で短く切り揃えられた髪。
魔族の特徴である黄色い瞳。
「魔族…!」
コロナはニコリと笑った。
「まだ、シャロンには紹介してなかったよね。この方はエドウィン様。シャロンの言う通り魔族だよ」
エドウィンはなにも言わずに、シャロンを見下す。
「な、なんで…こんなところに魔族が…。まさかアンリが呼んだの!?」
シャロンの言葉にコロナは大声で笑いだした。
「アンリが呼ぶわけないじゃない!ていうか、師匠に追放されてから一度も会ったことないのによくそんな的はずれな推測できるよね!私がエドウィン様をお招きしたのよ」
笑い過ぎて出てきた涙を拭うとコロナはエドウィンの横に立つ。
「なんで…?」
信じられない、なんでコロナが魔族なんかを呼ぶのか理解が出来ない。
コロナだってわかってるはずだ。
魔族が危険なことを。
「なんで、か。私ねずっと魔族になりたかったんだ。魔族って完璧じゃない?美しくって強い。なんでも持ってる!だから私も魔族になれたらって」
まるで夢見る少女のように語るコロナ。
「ま、魔族になんかなっちゃったら人殺しが普通になっちゃうんだよ?アンリの父親のキュールみたいに無差別に人を殺しちゃうんだよ!?」
シャロンの問いにコロナはキョトンとして首を傾げた。
「それが?何か問題ある?」
「本気で言ってるの?」
「本気に決まってるじゃない?ねぇ、シャロン。私、今までずっと言ってなかったけどさ、あんたのそういうところ大嫌い」
「え…?」
シャロンは目を見開いて、言葉を失う。
嫌い?嘘だ。だって、自分とコロナは親友のはずだ。
師匠との修行だって、二人で一緒に頑張ってたじゃないか。
シャロンは言い返そうと口を開いたが、コロナが先に喋り出す。
「あんたの偽善者ぶるところとか見てるだけで虫酸が走る。いいわよね、なにもしてないのに父親が命をかけてあの、どうしょうもない村人の命を救ってくれたお陰であんたは英雄の娘として村人に愛されて。ただ外から引っ越してきたってだけで迫害されてる私の気持ちなんてわからないでしょ」
シャロンは首を横に振る。
「誰も迫害なんてしてない!ただ皆、外から来た人が怖いだけなのっ!」
やっとの思いで出た言葉。
それを聞いてコロナは哀れみを帯びた笑みを浮かべた。
「そう言えるのは、迫害されたことがないからよ。シャロン。…でもね、シャロン。これをきっかけに生涯の友にしてあげるわ」
「何言ってるの…?」
嫌な汗が身体中から吹き出す。
どうしよう、逃げなければ。
コロナを置いて?
シャロンはどうすることもできずにコロナを見つめた。
コロナはシャロンの前に来ると優しく頬をなでた。
「魔族になるためには、誰かの命と引き替えにしなければいけないの。だから、シャロンにお願いしようかなって。だって、私たち親友なんでしょ?親友ならなんでも力になってくれるんでしょ?…ねぇ、だから私のために死んでくれる?そしたら私の生涯の友にしてあげるから。シャロンは私と親友でいたいんでしょ?だからこれが私の誕生日プレゼントだよ。シャロン」
コロナは今まで見たことの無い幸せそうな笑みを浮かべた。