出発
短めです。これで優斗視点終了になります。
「ど、どうする」
キリアの不安げな瞳が僕を見つめている。
「どうするって、ユーリを助けなきゃ」
「でも68層って」
「何ヶ月、いや何年もかかるかも知れない。けど、ユーリは見捨てられない」
「・・・・・・これってリリスの悪戯じゃないよね」
「うん。二人は迷宮にいるみたい」
勇者の恩恵、その一つにパーティーメンバーの位置把握というのがある。ただ二次元的な方向しか分からないのが難点だ。
「リリスが書かされたって事は?」
「分からない。どっちにしても僕たちは迷宮に行かなくちゃ」
丁度会話が止まった時、レティシアが宿屋に駆け込んできた。
「ユウト、魔術師見つけたぞ!」
「ちょっ、まっ、な」
おそらく「ちょっと、待って、何なのよ」ではないだろうか。まぁそれは置いといてレティシアが引っ張ってきたのは赤髪の女性。
見た目は16、7歳ぐらい、瞳は珍しい金色。髪は短めに切りそろえられていて全体的に少しきつめな印象を受ける。
「ユウト、こいつじゃ。クリスと言うらしいぞ。そこの酒場で見つけたんじゃ」
「あ、思わず満腹亭?あの、え~と、クリスさん?」
「もう、何なのよ。私まだご飯食べ終わってないのよ」
「酒場じゃないの?」
「あそこご飯がすごくおいしいのよ」
「へぇ~」
そういえば、慶明君もよく行ってたな。
「レティシア、予定が変わった。ユーリとリリスがいないんだ」
「どこに行ったんじゃ、あやつらは。全く」
「多分、連れ去られた。この紙が置かれてたんだ」
「何じゃこれは」
訝しげな視線が手紙に目を通した途端、驚愕に染まる。
「リリスが裏切った。妾達を・・・・・・許さぬ。妾は裏切りだけは許さぬ」
レティシアを中心に赤黒いオーラがゆっくりと渦巻き始め腰まで流した銀髪が浮き上がる。普段、偽装している瞳も吸血鬼たるクリムゾンレッドに変わる。
レティシアがここまで怒りを見せるのは、子供の時のトラウマが関係している。父親が一番信頼していた部下に裏切られ殺され、その遺体を晒されたのだ。
「レティシア、落ち着くんだ。リリスはここにはいない。というかリリスと決まった訳じゃない」
レティシアから発せられる魔力がポルターガイストじみた物を引き起こし始める。
「少し落ち着きなさい!」
クリスさんが一喝した瞬間、レティシアを渦巻くオーラごと魔力を消し飛ばした。
「あ、あれ?魔力が集まらん」
正気に戻ったレティシアが魔力を練ろうとして悉く失敗していた。
「しばらくは無理よ。今あなたの魔力孔は封印されてるから」
魔力孔とは体内の魔力を体外へ排出するための穴だ。目に見えない物らしい。これが閉じると体内の魔力を使うタイプの魔法・魔術が一切使えなくなる。
「どういうことだ。レティシアに何をした!」
「ちょっと封魔かけただけじゃない。軽めにしたから3分くらいで元に戻るわよ」
元に戻ると聞いてちょっと安心した。
「君は一体何者なんだ。封魔術式なんてそこら辺の魔術師が出来ることじゃない」
「私のは特別製。魔眼の能力よ、これ」
「魔眼!?封魔なんて初めて聞いた」
「あなたもその目、魔眼でしょ。というかあなたが知らないだけよ。世界には数多くの魔眼があるわ。ただ発見されてないだけよ」
「それを知ってる君は本当に何者なんだ・・・・・・。あ、そうだ。レティシア、戻るのはキャンセルだ。後続できる人を雇ってすぐにでも迷宮に行く。そういうことだからゴメンね、クリスさん」
「そもそも私は帰る気なんかないわよ。むしろ迷宮攻略組なんだから。というか、あなたたち迷宮潜ってたのに野営とか出来ないの?」
「いや、出来ない訳じゃないんだけど・・・・・・」
「一応、腕の良さそうな補助専知ってるわよ?」
「え、しょ、紹介してくれないか?」
「少し会うのに時間がかかると思うんだけど、転移門使えるならすぐよ」
「使える。その人の名前は」
「サトーっていうんだけど、補助職をいくつか完全習得してるのよ」
「よ、慶明君!?」
「ヨシアキ?サトーよサトー」
「その人、黒髪黒目で体は控えめだけど引き締まっていて顔も整ってて身長170に届かないくらい?」
「う、うん。そうよ」
「やっぱり慶明君だ」
「あいつ、確かに嘘は言ってないけど・・・・・・。ねぇそれってどんな字書くの」
「えっと、確かね」
リリスからの手紙の裏に宿屋のカウンターの上に置いてあった木炭で“佐藤慶明”とかく。
「あ、この字よ。あいつの名前なんか読めなかったのよね」
ステータスは自分が一番見やすい形に変わるが、他人が見た場合、名前だけは本人の一番使いやすい文字のままなのだ。
「ダメだよ。慶明君には頼れない。いや、頼らない。ゴメンだけど別の人を探すよ」
今は慶明君に頼っちゃいけない気がする。
「ふむ・・・・・・。これも何かの縁よ。私がパーティーに入って上げるわ。野営から基本的なことは全て出来るし、これでも一応強い魔術師だって自負してんのよ」
「え、でも」
「いいではないか、ユウトよ。妾達にあてなどないではないか。丁度良い」
「う、うん、そうだね。じゃあお願いするよ。40層までは行ってるからそこから進もう」
「分かったわ」
僕たちは、クリスをパーティーに迎え、68層に向けて出発した。
クリスは優斗に惚れたわけでは決してないので!
後、魔眼については間違っておりません。仕様です。