後悔
主人公と別れた後の天原PTの話になります。時間の進みがすごく早いです。
※間違いを修正しました。
ジェナス迷宮に入ってすぐに僕は、慶明君をパーティーから外した事を後悔した。
サキュバスのリリスさんは予想以上に強かった。敵もさくさく倒せた。
でも、殺した敵を解体する人がいなかった。解体は別にスキルが必要というわけではないが、スキル無しがすると品質が数段落ち、買い取り値段もかなり落ちる。
いつもなら5人は敵を倒すのに集中し、倒した敵は後続の慶明君が解体していく。という分業成り立っていたことを改めて認識した。
僕の持っているスキルに「無限収納空間」というものがある。小説でよくあるアイテムボックスかと思って食べ物を沢山つっこんでいたら、いつの間にか腐ってカビが来ていたことがあった。
前に慶明君と検証した結果、中に入れた物を最適な空間で収納するが、時間は止まらない、という結論が出た。
地球で言う冷蔵庫の万能型らしい。ちなみにゴミや汚れ物を入れたら劣化した。
ユーリとキリアの案で今日は迷宮で夜を迎え明日街に帰ることになった。
その晩、レティシアとリリス以外が私の腕前を見よ、と言わんばかりに可愛く飾り付けた料理を出してきた。
3人には悪いが、慶明君の方がおいしかったし栄養バランスも考えられていた。
野営の準備でもしたことがあるのは、僕とキリアだけだった。しかも僕もキリアも慶明君がやってくれるようになってから一度もしていない。
結局、寝袋のみで寝ることになった。見張りも経験のない面子ばかり。かく言う僕もほとんどしたことがない。
街に帰ったら、今までのことも含め突然パーティーを外した事をしっかり謝って、リリスさんには悪いけど外れてもらって慶明君にもう一度仲間になってもらおうと思っていた。
街に帰還すると慶明君はすでに旅立った後だった。
迷宮で手に入れた大量の魔物の死体は、そのまま買い取って貰えたが解体料も加味され、いつもとは桁が1つ違った。
解体師の職業は、僕とキリアが取った。他4人は、したくないと言って拒否した。
それからも僕たちの迷宮攻略は遅々として進まなかった。
装備が消耗し破れた。慶明君に渡せば数10分で返ってきたのに街で頼むと1週間はかかる。
僕の魔眼で分かるのは、対象の情報だけ。罠があるのは分かってもどんな罠かは分からなかった。
慶明君からの週1の薬剤供給が無くなった事を忘れていて、戦闘中に薬剤切れを起こした。
大事な物は失ってから気付く、とはよく言ったものだ。
このパーティーにとって慶明君は欠けてはいけない歯車の一つだったことに今更気付いた。
それからも事ある毎にパーティー全員の士気が下がり続けた。
僕たちが迷宮攻略を一時中断せざるを得なくなった決定的な事件が起こったのは、迷宮攻略を始めて2ヶ月後のことだった。
◆◆◆
僕の思い描いていたビジョンとは、大きく違ったがやっと全体の5分の2、第40階層のボス部屋にたどり着いた。
「やっとここまで来ましたわね」
「結構かかったわね」
「予想外」
「妾は早く帰りたいんじゃが」
「それには同意ね。そろそろきっちりと体を洗いたいわ」
上からユーリ、キリア、ソフィー、レティシア、リリスの順だ。
「さぁ準備はいい?」
薬剤も沢山持ってきた。武器も装備も1週間の時を費やし、完璧な状態にしている。ボスの情報もばっちりだ。
ボスの名前は、デッドリーゲイズ。その名の通り、この迷宮初の即死攻撃をしてくる敵だ。
見た目は、ただ瞼の閉じられた目そのもの。ただしその瞼が開く時、効果範囲の敵は全ての防御を貫通して即死するのだ。
兆候として黒いオーラのような物が出るらしく、それが始まったら攻撃してはいけないと言われた。
「じゃあみんな、いくよ!」
ボス部屋の特徴である気味の悪い装飾のなされた重そうなでかい扉(ほぼ無抵抗で開く)を押し、中に飛び込む。
全員が入った後、扉が閉まるのもボス部屋ならではだ。
「散開!」
入ってすぐ瞼の開く兆候(黒いオーラ)が見られたので視線の範囲外に逃げるよう指示する。
みんながデッドリーゲイズの横に到達した頃、デッドリーゲイズの正面に真っ黒い空間が出現した。
思いの外、効果範囲が広くひやっとした。10秒ほどその瞳は死を与え続けた。
瞼が閉じた瞬間が、僕たちのターンだ。
「よし、今だ!」
6人全員が動き出す。ユーリは支援を、ソフィーは魔術を、キリアと僕は剣で奥義を、レティシアは血の槍の投擲を、リリスは吸精を。
ただボスのHPを減らす事だけを考えてひたすらに攻撃を打ち込む。
おぞましい目玉がブルリと震えゆっくりと僕を視線に収めるため回転し始める。
予想だが、与えたダメージが一番大きい人の方を向くのだろう。
「みんな、裏に回って!」
僕も瞼が開く前に効果範囲から逃れようと移動する。
「ユウト、待って!ユウトの移動に会わせてボスも回転してる!」
「え!?」
確かにキリアの言うとおり、ボスの正面には今だ僕がいた。
黒いオーラが漂い始める。
「くそっ!」
一瞬だが体が硬直した。もう回り込む時間はなさそうだ。
危険だがデッドリーゲイズのすぐ横を抜けて範囲外に逃げよう。
全速力で走る。さっきオーラが出てから即死攻撃が来るまで5秒。
ギリギリ間に合わ――
「化け物、こっち」
目玉の側面に高威力のアイススピアが衝突した。
デッドリーゲイズはブルリと震え、攻撃動作中に攻撃した無礼者に視線を向けた。
瞼を開く動作すらなかった。一条の黒い即死レーザーがソフィーを貫いた。
ソフィーが死んだのを見て、空中浮かぶ目玉はまるで喜んでいるように上下に揺れた。
「ソフィィィィィィ!!!」
その時、リリスの口が嬉しげに歪んだのを見た者はいなかった。
優斗の魔眼の能力は、「鑑定」です。