ウソと警告
「何か得意なことはありますか?」
相手の顔色が少し落ち着いてきた頃を見計らって、声を掛ける。
「ご申告いただいた関連項目について調べてみますが・・・。」
相手の目の玉が大きく左右に振れたあと、視線を正面からそらしながらしゃべりだした。
「仕事ではこの10年は管理職をしてきた。前職でも学生時代も成績は優秀だった。学習適応能力とかで何かないか?」
高圧的なもの言いとは裏腹に、目がさらにくるくるまわり、鼻の穴が膨らむ。
相手の顔の横に半透明の吹き出しがでて、[警告:ウソ76%]というオレンジ色の文字が浮かぶ。
虚勢か自己欺瞞だろうか?
プライドを守るためのちっぽけなウソすらも裸にされてしまうのはこの装置の悲しいところだ。
1年ほど前に類似機能を持つ「エアリーダー」とよばれるメガネ型ウエアラブルコンピュータが発売になった。体験会場で展示品を試着してみたことがある。
しかし値段のわりに仕事でつかっているものに比べるとまるでおもちゃだ。
高性能版を毎日使っていると、市販品に機能制限がついているのも家庭や職場の平穏のためには無理からぬことだとつくづく思う。妻が職場性能なみのエアリーダーをつけていたらお面をつけずには顔もあわせられなくなってしまう。
感情増幅表示装置により興奮状態が誇張された、まるで「ひょっとこ」のような顔がモニタに映しだされている。面談中の相手の男だ。ひん曲がりながらとがった口元、斜めを向いた目。おでこに集まるシワ。
顔のパーツを福笑いにされたうえにこんなコミカルな顔になるとは・・・。
このシステムはプライバシーは守ってくれていたとしても人としての尊厳を守ってくれるかは怪しいところだな。
心拍数が落ち着いてきたのか、ゆらゆらと顔色を変えている面談者をサブモニタにおいやって適性情報を表示する。
記憶力や環境学習など学習に関する評価項目を中心に並び替えてみたが、同年代の上位5%どころか30%にはいるような準優位適性ですらひとつもない。それどころか世間的には歓迎されない適正は軒並み高偏差だ。・・・これはまずいな。
総合評価欄に「多様性価値」としか表示されないときは大概は要注意である。
この総評がついたときには
「現在までのところとりたてて他者に比べて優位な遺伝適性は見つけられていないけれども生物学的には多様性を持つことには価値があるのでそれぐらいの価値はある」
というながったらしくも残酷な文が縮められたものだ。つまり特記事項なし。
適性を伝えるのにこれほど苦労をする相手はいない。
ないものを一体どのようにして伝えろというのだ。
ないものを伝える。つまり、ぬるっぽ!!
ルビのついかいかたを覚えました。めんどくさいね・・・