真実を言うと赤くなる
さきほどまで少し緊張したぐらいの面持ちであった男の顔は今は緊張を通り越して文字通り青くなっていた。クレヨンで塗りつぶされたような鮮やかな青だ。
心臓の拍動とともに波打つように色の濃淡がかわり、ぎょろりとした大きな目の玉がせわしなく動ごいている。
「はぁ、で、なんなんです?」
青にまみれた男は、ため息を吐くように質問をしてくる。
「その、タイウセイ?価値というものは??」
「多様性価値です。いろいろな種類があるという価値です。」
甲高い音がまじった無機質な声がそれにこたえる。
「つまり、いろいろなヒトがいることそのものに価値があるということです。」
青い男は首をかしげ、それでも何を言っているのかとわからない様子。
説明が続く。
「手先が器用なひと、記憶力が高いひと、発想力が高いひと、疲労回復力があるひとなど、いろいろなヒトがいますよね? しかし、なかにはこのような特性がまったく無いひともいます。」
黙って聞いていた青い男が視線をこちらにむけ、みじろぎひとつしなくなる。
「しかし、このような特性はないということも、そのヒトの個性として価値を認めようというのが多様性価値です。なにも適性がないという適性があるということで……」
「なっ、なにも適正がない!!?」
男の悲鳴にも似た声で説明が遮られる。
いままで青い顔をしていた男の顔色が一瞬で青から赤に変わった。
あー、やれやれ困った。
興奮状態に入ってしまったようだ。この5分間。面談しているこの男の脈拍は激しく変動し呼吸も浅くなっている。赤い顔の左上に応対注意のマークと警告文が出ている。
このままいくと安全処置がとられて面談中止になるかもしれないなと思いながら、返答にわざと時間をかけながら相手の顔色がすこし落ち着くのを待つ。
相手の感情を刺激しないよう声の無機質度をあと10ポイント上げよう。
「ソウデスネ…、何か、もっと、違う適性がないか掘り下げて調べてみますね。」
適当な相槌をしながら面談者の適性情報が映し出された画面に目を移す。
そんな適性などないことはわかっている。主要8分類分析にも中核32分類にも好評価がなければ、全体に影響を与えるほど特筆すべき特性などあろうはずもない。
不適性項目の詳細ウインドウをひらく。
強迫性と突発性感情爆発に+が記され低自己統制特徴がマークされていた。
なるほど、昔しのような対面式の面談だったら胸ぐらぐらいはつかまれていたかもしれないなと一安心をする。
この画面の向こう側で鼻息を荒くしている面談者に
『あなたの短気はうまれつきですよ』
こんな風に伝えても余計に怒らせるだけだ。
・・・さてと、どうしたものか。
面談者Nは椅子に深く腰掛けなおすと再び画面に目をもどした。