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ユーリィ君の受難  作者: イブスキー
第二章
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第46話

 入り口で二手に分かれようというアルの提案に同意して、ヴォルフは一階の三部屋を見て回った。

 しかしどの部屋にも人気が無く、ホールへと戻った。


 数分前、“教会”の正面扉をあっさりと解錠したアルは、手にしていた二本の棒をヴォルフへと見せつけた。

 それは何だと尋ねると、

『昨日、ユーリィ君と一緒に行った闇市で手に入れた、秘密道具ですよ。本当は彼の部屋に忍び込もうかと思って買ったのですけどね』

 と、しれっとした顔で返された。


 アルのそうした冗談はもう聞き飽きていたヴォルフだったが、二人の口づけが脳裏に蘇り、いたたまれない気持ちになった。


 確かにあの時、自分の事を考えていたのは確かだったのだから。

 どうして俺は開き直れないのだろうか。もしもあの場でアルのような行動が取れたのなら、ユーリィは自分を受け入れたのではないかと、そんな幻想が浮かんでは消えた。


(後悔しても仕方が無い。これから先は絶対に……)


 決意を新たにしながら、そびえる巨像に目を転じる。ホールにはランプがいくつか備え付けられていて、その(ほの)かな光が不気味さに拍車をかけていた。


 昼間見た時は気づかなかったが、頭のない像の首は天井部と接続されているようだ。もしかしたら、この像は柱の役目も果たしているのかもしれない。そんなことを考えていると、突然、どこからともなく女達の悲鳴が聞こえてきた。


 像を取り囲む上階の回廊を見上げてみる。すると顔を押さえた女が一人、階段を上がって行くのが見えた。


 またユーリィが何かやらかしたのだろうか。


 急いで階段を駆け上がる。

 女が見えたのは三階の廊下だったはずだ。



 三階に到達すると、ヴォルフは扉の一つ一つを開けて、ユーリィの姿を探し回った。

 やがて最後の一つに到達すると、その扉をゆっくりと押し開ける。薄明かりが点いた室内に人の息遣いをわずかに感じて、息を殺して踏み入った。



 光に浮かぶ輪郭は、アルに似ていた。ちょうど何かの上から降りようとしているところだった。


「アルか?」


 数歩進んでギョッとなった。

 台のような場所に誰かが横たわっているのが見える。


(まさか……)


 アルらしき人物が黙って壁際へと歩いて行くと、そのまま壁に寄りかかり、こちらを眺めているようだ。


 何かあったのか心配になったヴォルフは、足早に台に横たわっている人物に近づいていく。

 目に飛び込んできたのは、寝台の上に両手を何かに括り付けられたまま寝かされているユーリィの姿だった。

 大きくはだけた胸元からのぞく白い肌と、わずかに下ろされているズボンがあられもない。その何とも色っぽい姿に、ヴォルフは目がチカチカした。


「ユーリィ、大丈夫か?」

「お陰様で貞操だけは何とか……」


 壁際で“コホン”と空咳をしたのは、まさしくアルベルト・エヴァンスのものだ。


「アル、貴様! これは抜け駆けだ! 俺だって我慢してるっていうのに……」

「ま、待って下さい、ヴォルフ、誤解です」

「何が誤解だ?!」

「あれは私の仕業ではなく、彼女達が……」


 上擦った声でアルが指さした場所に、数人の女達が倒れていた。


「言い訳など聞きたくない」

「落ち着いて下さい、ヴォルフ!」

「うるさい!」


 槍を握りしめ、アルに詰め寄る。その首元に矛先の狙いを定めた。本気で突くつもりはないが、本気で突きたい気分ではある。

 その瞬間、二人の言い争いを遮って、寝台の上から激しい罵声が飛んできた。


「お前ら、いい加減にしろよ! 早く解かないと、もう二度と口きかないからな!」


 ユーリィの怒鳴り声に、男達の醜い小競り合いは終了した。




 最後のボタンを留め、身支度を整えたユーリィが憮然とした顔でヴォルフとアルを睨み付けた。その手首には痛々しい痕が赤く残り、彼は何度もさすり動かしてみせる。随分と長い間拘束されていたようだ。


「あの女、逃げたのかな」

「登っていく姿は見たが……」

「そう、じゃあ行こう」

「行こうって……。ユーリィ君、このまま逃げた方が良いと思いますが?」

「上着を取り返さないと。あれは僕の全財産が入っているんだから」


 ヴォルフは、繻子の刺繍の入った濃紺の上着を思い浮かべ、やたら付いているポケットのことも思い出してしまった。

 口にすると絶対に怒られるので言わないが、ろくでもない物が詰め込まれているらしいそれを取り返す為に、またまた俺は振り回されるのかと思うとヴォルフの心は急激に重くなっていった。


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