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ユーリィ君の受難  作者: イブスキー
第二章
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第44話

 何かの音に目が覚める。ユーリィはゆっくりと瞼を開いて辺りを見回した。自分がどこにいるのか瞬間的に思い出せない。兎に角起き上がろうと手足を動かしかけたが、どちらも張り付いたようにびくりともせず、ひどく驚いた。


 自分の体を見下ろしてみる。足先は見えなかったが、広げられた両手首に枷のようなものがガッチリと取り付けられて、強引に引っ張ると皮膚が擦れて痛みが走った。どうにか抜け出せないかと散々試してみたが、枷は緩むどころか益々きつく締まっていくようだ。


(いったい何がどうなってるんだ?)


 冷静になって力を抜いてみると、その時になって初めて全てを思い出した。少々遅すぎる気もするが……。


 丘の公園で女達に捕らえられ気絶させられたのだ。ここはきっと例の“教会”に違いなく、ベッドの上に寝ていると思ったが、背中の感触から何かの台上にしばり付けられているようだった。


(あいつら、ふざけやがって……)


 気絶する寸前に女が使った“処刑”という言葉が蘇ってきた。それがどういう意味かは知らないが、この状態で処刑させられるのだけは勘弁して貰いたい。



 薄暗い部屋、濃紺のカーテンの隙間から弱々しい光が差し込んで、室内の物を影のように浮かび上がらせている。左手の壁際に例の女神像があった。ホールの巨像と同じく首がないのは宗教上の理由なのだろうか。


 左手には壁一面に鏡が張られている。息苦しいほどに香水が充満している。一体何の為の部屋かユーリィには想像もつかなかった。


 その時、頭の方で扉が開く音がし、数人の足音が聞こえてきた。

 白いローブを身に纏った三人の女達が台の横に姿を現し、冷たくユーリィを見下ろした。女の一人が持つ蝋燭の光に女達の姿が浮かぶ。彼女達の瞳は生気を失ったように艶も色もなく、まるで死人のそれを思わせる。不気味なことに、三人のうち二人は顔中に包帯が巻かれ、棺桶から抜け出してきたようだった。


 包帯を巻いてない女が徐にユーリィの方へと腕を伸ばしてきた。


「な、何をする気だ?!」


 シャツの襟元を掴まれた。上着は気絶している間に剥ぎ取られたようだ。首でも絞められるのかと顔を歪めると、彼女はシャツのボタンを一つ一つ外し始めた。

 少しずつ空気に(さら)される肌に若干の恐怖を感じ、ユーリィは叫き散らした。


「お前ら、変態か!」


 だが叫ぼうが罵ろうと自由を奪われている状態ではどうすることも出来ず、とうとう全てのボタンを外されてしまった。


 何をするつもりなのかと身を強ばらせている。すると今度は包帯女の一人が、手にした小瓶を頭上に掲げる。何か呪文のような言葉を吐きながら、女は中身をユーリィの胸の上に滴らせ始めた。

 途端、部屋中に立ち込める香水と同じ匂いが鋭く鼻を刺激する。


「くせーぞ! ふざけんな!」」


 だがそんな彼の罵声も怒声も完全に無視し、女達は黙って部屋を立ち去った。



 扉の閉まる音を聞きながら、怒りに熱くなった頭を冷まそうと頭を振る。これは何かの儀式なのだろうか。それともまさか皆で自分を慰め物にでもするつもりなのか。


(何とか逃げ出す方法はないのかよ)


 焦る気持ちを抑え、周囲を見回す。差し込んだ光は先ほどより薄暗くなった気がする。夕方になったのだろうか、それとも蝋燭の光に眩しさを感じた分だけそう感じるだけだろうか。


 何とかしなければならない。しかし手足は動かせず、アイテムを詰め込んだ上着も奪われている現状で、打開策など見つかるとはとても思えなかった。


 その時ふと、昨夜買ったアイテムを装備していることを思い出す。まさかこんな状況に陥ることを想定して取り付けたのではないが、何とも幸運ではないか。


(貞操を守るつもりだったのに……)


 ユーリィは自傷気味に笑うと、そのまま敵が現れるのを静かに待った。


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