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ユーリィ君の受難  作者: イブスキー
第二章
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第31話

 その日の午後、ヴォルフとアルは依頼人に会いに行った。ユーリィも一緒に行きたかったが、二人に止められ諦めざるを得なかった。理由は体力の温存だ。例の件で確かに本調子ではない。明日からの旅に備えて今日はゆっくりと休めと命令され、ユーリィは渋々部屋で横になっていた。


 日が暮れ始めた頃、二人はようやく帰ってきた。その様子が何となくおかしいのが、ユーリィは気になった。何処がどうというわけではないが、自分を見る目が何となく朝とは違う。何かあったのかと尋ねると、“別に”と返事をされた。


「で、依頼者ってどんな人?」

「修道女だったよ」

「修道女? へぇ……、綺麗な人?」


 するとアルが「とても綺麗な女性でした」とにこやかに言った。


「綺麗な人なのか。じゃあ、明日会うのは楽しみだなぁ」

「子供は相手にしないさ。ああいう素敵な女性は、俺のような大人の男じゃないと」


いつになく冷たいヴォルフの声に、子供扱いへの文句も言えなくなる。


「ヴォルフ、もしかしてその人、気に入ったの?」

「彼女に惚れなければ男じゃないな。アルだって気に入っただろう?」

「ええ、ああいう人が理想の女性と言うんですね、きっと」


 どうやら目の前の男二人は、綺麗な修道女にすっかりご執心らしい。まあ、それならそれでいいやと思ったユーリィだったが、反面、昨日までの騒ぎは何だったんだと呆れもした。結局自分は、言葉は悪いが“やられ損”だったのだろうか? いや、それでも別にいいけど、だったら最初からわけの分からない事でこちらを振り回した件はどうするつもりだ、と。


(まあ、いいけどね)


 と思いながら、何故か寂しさを感じてしまった自分が本当に嫌になる。きっとそれは、誰かにチヤホヤされるのが生まれて初めてだったので、少しだけ気分が良かったんだろうと自分に言い聞かせ、納得することにした。



 次の朝、待ち合わせ場所にその修道女は立っていた。如何にもという白いローブを身に(まと)い、伏し目がちなその顔は確かに素晴らしい美人で、ヴォルフ達でなくても心を奪われてしまう。色の薄い長い金髪、長い睫毛、その奥にあるエメラルドの瞳、透き通るほどの肌、形の良い唇など、完璧と言っても良いほどの完璧の美しさだった。


 ユーリィもしばし見とれ、遠慮がちに挨拶をすると“よろしくお願いします”と鈴の鳴るような声で応えてくれた。ヴォルフ達が相手ではとても敵いそうにないが、一緒に旅が出来るのは楽しそうだ。少なくても男二人よりもずっとマシだと思った。


 

 旅を開始して半日は何もなかった。強いて言えば、男二人が修道女の両脇にピッタリとくっついて、ユーリィはその後ろをトボトボと歩かなければいけなかったことぐらいか。三人は楽しそうな会話をしていたが、歩く位置の問題か、それとも自分とは話すことがないのか、一度も振り返ってはくれなかった。出来ればシルフィ嬢とだけでも話したかったが、何となく気後れしてユーリィはそのまま黙って付いていく。体力的に辛かったという別の理由もあったのだが。


 昼食の時間になり、道端で持ってきた昼食を食べ、半時ほどですぐに出発した。ユーリィとしてはもう少し休んで欲しかったが、シルフィ嬢が急いで欲しいと言ったので、結局それに従うことになったのだ。

 昼食の間、ヴォルフとアルはずっとシルフィ嬢と話し込んでいた。ユーリィも仲間に入れて欲しくて口を挟んだが、あまり相手にはして貰えずガッカリする。その上、シルフィはユーリィが話しかけること自体迷惑なようで、ヴォルフ達には気付かれないような鋭い視線を送ってきた。


(美人だけど、ちょっと嫌な女かも……)


 そう思うと彼女に話しかける気力も失せ、ユーリィはもうどうでも良くなっていった。

 


 草原と森を交互に抜ける街道は、午後の優しい陽差しの中で何となく気怠い雰囲気があった。多分それは、季節が暖かくなった心地よさがそうさせているのだろう。それとも体力がそろそろ限界なので、この場に座り込みたいと思っているせいなのだろうか。ユーリィはどうしようもない疲れに深い息を吐いて、とうとう音を上げることにした。


「ヴォルフ、ちょっと待って」


 ユーリィの声に、ヴォルフはやや迷惑そうな目つきで振り返る。


「あ、あのさ、少し疲れたんだけど休んでいかない?」


 するとすかさずシルフィ嬢が“休んでいる時間がありませんの”と呟いた。


「依頼者のシルフィさんの意見は絶対だよ、ユーリィ」

「そ、そうだね」

「大丈夫ですか、ユーリィ君?」


 ヴォルフより若干優しい瞳でアルが尋ねてくる。ユーリィは何と答えようかと迷っていると、ヴォルフの冷たい言葉が返ってきた。


「昨日、君は“大丈夫”って言ったよな?」

「う、うん」

「じゃあ、文句はないな」


 ヴォルフはそう言うと、シルフィの肩を抱いてさっさと歩き出してしまった。アルはやや躊躇ったようだが、結局は二人の隣にそそくさと並ぶ。ユーリィはその様子をただ悄然と見つめていた。



 一度立ち止まってしまうと、歩き出すのが本当に面倒だ。確かに“大丈夫”と言ったのは自分だったが、まさかここまで体力が落ちていたとは想像もしていなかった。

 しばらく三人の後ろ姿を眺めていたユーリィだったが、立ち止まっていることすら気付かれず、少しずつ離れていくその距離に、追い付こうという気持ちすら薄れてしまった。


(考えたら、一緒に行く理由なんてなかったよな)


 仕事を請けようと言ったのは自分だが、請負人はヴォルフだし、そもそも一緒に行こうという約束すらした覚えがない。何となく同行する事になっていたが、どうやら彼らはそんなつもりはないらしいと感じ始めた。


「もういいや。それに一緒に行ったら足手纏(あしでまと)いらしいから……」


 そう呟くと、ユーリィは近くの根に腰を下ろした。


 見上げると、森と言うほど鬱そうとはしていないが、張り出した枝が蒼い空を遮っている。鳥達の(さえず)りと微かに感じる緑風が、疲れた体に眠気を誘い、ユーリィは大きな欠伸をした。


「また一人旅かぁ」


 別にそれが嫌だというわけではない。今までもこれからもそうしようと決めていたのだから。しかし数日間誰かと一緒にいたせいか、一人であることの寂しさをほんの少し感じた。


 ヴォルフ達とはもしかしたらソフィニアで合流出来るかもしれない。しかし何となく会わない方がいいような気がした。会ってしまえば、気まずさを互いに感じずにはいられないだろう。彼らが悪い人間ではなかったという記憶だけを胸に残して、永遠に別れた方が互いの為だ。もっとも二人が自分の事を良く思ってくれるかどうかは分からなかったが。


(生意気なガキだったと思われるかもなぁ、それとも忘れられたりして……)


 良く思われようなんて思わなかったのでそれでもいいが、忘れてしまわれるのは何となく嫌だなと思った。


(それにアイツらにとっては数ある経験の内の一つだろうけど、僕にとっては初めてだったから)


 そう言いながら何気なく自分の唇を触り、慌てて手を離す。


「何言ってるんだよ、忘れて貰った方がいいじゃないか」


 苦笑とも溜息とも付かない息を吐いて、ユーリィは肩を落とした。やっぱり人と一緒にいるのは止めた方がいいようだ。迷惑をかけるのも嫌だし、自分の弱さも実感してしまう。


 こんなに寂しく感じるのは、本当に久し振りだった。



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