第23話
「きっと嫌われてしまいましたね? どうします? 貴方の力なら、無理矢理にでも彼を手に入れられますよ?」
どれほどの時が経っただろう。長い沈黙を破ったのはアルフだった。口元の微笑みを一切浮かべず、彼はヴォルフにそう尋ねた。ヴォルフの視線は丘陵の先にある。姿が見えなくなったユーリィの後ろ姿を、彼はまだ見つめ続けていた。
「そんなことはしない」
「ではどうするつもりですか?」
「アイツが逃げ出そうとした時、俺の思いなど絶対に受け止めて貰えないだろうと分かったから……。だからいっそ、憎まれて全てを終わらせようと思っただけだ」
それだけではない。口になど出して言えないが、あの一瞬に思い通りにならない相手を力で御したいという、醜い加虐欲と征服欲が一気に爆発したのだ。
自分がこれほどまでに汚く腐った人間だと知った今、これからハンターとして生きていけるかどうかすら危うかった。
(俺は盛りのついた獣以下だ……)
そんな人間が何者かに制裁を加えるなど笑い話だ。もし続けるのなら、今までは選ぶことの無かった、腐臭が漂うほど俗悪な仕事をするしかない。
「見損なってくれてもいいぜ。俺は最悪だ」
「いっそ、墜ちるところまで墜ちるのも悪くないと思いますが」
「そんなことは……」
その瞬間、ヴォルフの言葉は凄まじい轟音に遮られた。
顔を見合わせた二人が音の聞こえた前方に視線を移すと、丘の向こうに白煙が立ち上がっている。ヴォルフは思わず息を詰め、呻くように呟いた。
「なに……?!」
「ユーリィ君に何かあったんでしょうか?」
「くそっ!」
槍を握りしめたヴォルフは、気が付けば一目散に走り出してた。たった今、少年とは永遠に別れようと決意したばかりだというのに、またこんな事が起きる。いつになったら自分は平常心を取り戻せるのだろうか。
疾風の如く消えていくヴォルフは、残されたアルフが呟いた言葉はもちろん知らない。その瞳に浸み出す黒き恨海すらも……。
「そろそろ私も限界かもしれません……」




