表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユーリィ君の受難  作者: イブスキー
第一章
22/66

第22話

「そいつに手を出すなぁ!!」


 余韻を残して彼方に消えていくヴォルフの声が、真っ白になったユーリィの頭に木霊する。茫然自失とはこの事だ。


(……こ、こいつ……目がいっちゃってる……)


 まずいと思った。こんな場所で何かをされるなんて常識的に考えられないが、たった今アルフに抱き付かれてしまったのだから、現状は常識など通用しないらしい。そもそも男に告白されること自体、ユーリィの常識範囲を超えている。


(に、逃げよう……)


 ジリジリと後退った。ヴォルフはまた倒れたアルフを睨んでいる。彼がこちらに気付く前に早く逃げ出そう。そう思って踵を返した途端、後ろ手を掴まれてしまった。


(またかよっ!)


 毎度のパターンとはいえ、捕まってしまう自分が情けない。引き寄せられ、アルフの時とは比べ物にならないほどの力で抱き付かれる。


「やっぱり逃げるのか?」

「決まってるだろ。おい、放せ! 冗談はいい加減にしろ! 僕は男だぞ!!」

「知ってるさ……」


 藻掻いたところで体格の差は歴然。片手で押さえつけられ、更に反対の手で顎を掴まれる。その強引な行動にユーリィは思わず目を閉じてしまった。ヴォルフの端正な顔が近付いて、恐ろしさに体が固くなる。助けてくれと叫びたいのに、声すら出てこなかった。


 唇が重ねられる。“ウッ”と喉の奥で悲鳴を上げたが、その瞬間に唇をこじ開けられ、ヴォルフの舌が中に入ってきた。歯の裏に触れられる。口腔をなぞられる。舌に絡み付かれる。息苦しさに呼吸をしようにも、その方法すら忘れてしまったかのように、ユーリィは喘いだ。


 濃厚な口づけは永遠に続くかのように思えた。気が遠くなるほど劣情を注ぎ込まれ、ユーリィはもう抵抗する気力さえ失っている。体中が熱くなっていくのは怒りのせいだろうか?


 散々(なぶ)られ、狂った刻が過ぎていった。


 ようやく解放された時には、いつの間にか目に涙が溜まっていた。肩で呼吸を繰り返し、必死に熱を下げる。この場に崩れ落ちそうなほど心も躯ものぼせていた。


 二度と嫌だと思ってたのに、絶対に嫌だと思ってたのに、まさかこんな場所で……。


「ヴォルフ・グラハンス、こんな場所で行うことじゃないですよね?」


 アルフの声は恐ろしいほどに冷たく、ヴォルフを容赦なく突き刺した。


「悪かった……」

「もうこれで二度目、いや三度目だぞ! 嫌だって言ってるだろ!」


 罵りながら、ユーリィは唾液が付いた唇を手の甲で擦った。唇と口腔にまだ感触が残っていて、早く消し去りたい。


「どうやら俺は本気で君を好きらしい。ようやく気づいた」

「気づくな、そんなこと!!」


 犯した行為を悪びれている様子など、ヴォルフには全くなかった。その表情があまりに真剣でユーリィは一歩二歩と後退る。


「痴話喧嘩は私のいないところでやって下さい、ヴォルフ・グラハンス」

「お前が(あお)ったからだろう?」


 とうとうユーリィは堪忍袋の緒が切れてしまった。何でこんな目にと何度思ったことだろう。何にも悪いことなんかしていないはずなのに。それともやっぱり悪いのは自分なんだろうか?


「もう聞きたくない!!」


 ユーリィは叫ぶと、そのまま駆け出していた。


(畜生! 大嫌いだ!)


 そんなユーリィの後を追うように、白蝶がひらひらと青海原を舞う。日差しはやけに明るく、景色は邪魔なほどに平和そのものだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ