第21話
少し時間を遡らせる。
ユーリィが立ち去った前日の食堂。いつまでもアルフと肩を並べて食事をするのも妙だと思い、ヴォルフは殆ど手を付けてない皿を残し、立ち上がりかけた。すると下からアルフに睨め上げられる。
「ヴォルフ・グラハンス、いつまでもそんな態度をしていると、本当に彼に嫌われますよ?」
「もうとっくに嫌われるさ」
「本当に貴方らしくもない。昔の貴方はもっとスマートに、色恋を愉しんでいたはずですが」
「俺だって困惑してるんだ。だって相手は……」
食堂に来るまでは本当は、穏やかな対応をするつもりでいたのだ。そう、少年の姿を見るまでは……。だが入口からその顔を覗いた瞬間、気持ちはすぐに萎えてしまった。席に着いたものの、顔すら上げることが出来ない。自分で自分を罵りながら、息苦しさを誤魔化すように、ひたすら目の前のポテトをつつき回していた。
最後にアルフが馬鹿なことを言った時ですら、ヴォルフにはそれを肯定も否定も出来ず、ただ怒った少年を見つめることで、己の愚かさを確認しようとしたのだが……。
あの時、眼と眼が合ったその瞬間に、彼は赤らめた。どうして彼はあんな顔をしたのだろう。気の強そうな顔が、儚げな少女の如く変わる。青い瞳がランプに煌めく、赤い唇が濡れたように輝く。その表情を思い出しただけで、ヴォルフは体中が熱くなり、思わず眼を閉じて唇を噛んだ。
(本気なのか、俺?)
そんなわけで、悩める恋男は二人の前をトボトボと歩いていた。背後の二人が気にならないと言えば嘘になる。本当は彼らの間に分け入って、愉しげな会話 ──実は腹の探り合いなのだが── の邪魔をしてやりたい気分であった。
森を抜けると、目の前に高原が広がった。青々とした草は風を孕んで靡いていく。清々しい空気を胸の中に吸い込むと、ほんの少しだけ気分が晴れた。ヴォルフは何となく自分を取り戻せそうな予感がして、顔を上げて景色を眺めようとしたその瞬間だった。
「ユーリィ君、君は本当に可愛いですね!!!」
背後から聞こえてきたアルフの叫び声にギョッとなる。彼がそんな大声を出したのを聞いたことがない。思わず振り向いてしまうと、再び驚いて口をあんぐりと開けてしまった。
背後では、アルフとユーリィ少年が抱き合っていた。いや、抱き合ってるのではなく、アルフが無理矢理押さえつけているのだ。さすがのヴォルフも、逃れようと藻掻いているユーリィがアルフに“抱き付いている”と思うはずもない。
まさかアルフが自分を試しているなんてヴォルフは想像もしていなかったし、そんな余裕すら全くなかった。ただ頭がカァーと熱くなり、激しい怒りに腹の中が煮えたぎる。
気が付けば槍を握りしめて道を駆け戻り、にやけたアルフの頬を殴り倒していた。
「アルフ、貴様ぁ!!」
尻餅をついたアルフを見下ろす。その傍らに、唖然として立ち尽くすユーリィの姿がある。ヴォルフは未だ怒りの収まらない状態で、吐き捨てるようにこう宣言した。
「そいつに手を出すなぁ!!」




